783 巨竜城塞
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名宰相と呼ばれたトリブナーレ法務大臣が豹変したのはその日からだった。
それまでは貴族と一般人の区別を付けず、――犯した罪は身分に関係ない! と言っていたはずの法務大臣は、露骨に一般人を差別するようになった。
彼は少しの微罪でも取り締まるようになり、牢屋は人であふれた。
また、脱税等は一般人にはむち打ちの見せしめを行うが、貴族の脱税はお咎め無しになり、その事は一般人の反感を買った。
いつしか――大臣は悪魔に魂を売ってしまった――だの、――あの大臣はニセモノで本物は牢に捕らわれている――といった噂も出回るようになった。
そしてそのすぐ後、彼は引退を発表し、息子がその後を継ぐようになった。
これはグランド皇帝による任命だったので、誰も文句を言えなかった。
トリブナーレ法務大臣の息子は、父親以上に苛烈で、人を人とも思わないような態度を見せた。
子供のいる母親から子供を取り上げ、税金が払えないならお前がその子供を殺せと斧を手渡し、泣く泣く子供を殺した親を子殺しの実行犯として捕らえる。
そして苛烈な拷問の末、魔女だと決めつけて見せしめの処刑を行う。
その処刑方法は毎回異なり、火あぶり、水攻め、雷の魔法を撃たせる、落とし穴に生き埋め等、処刑はルーレットで決められた。
いつしかこの国の法は悪魔の手に落ちたと言われるようになり、良識派と呼ばれた皇帝派貴族はかつての公爵派貴族よりも残忍で冷酷な処刑を科す法務大臣親子を打倒する為に立ち上がった。
そう、皇帝派貴族が分離してしまったのである。
だがこの分離、裏に居たのはやはり魔将軍アビスだった。
分離して法務大臣側についた貴族は、アビスとその妹の眷属により人間であることを辞めたアンデッド達だ。
まだ犠牲になっていない良識派はモンターナ環境大臣、ピアンタ工業大臣、ラガハース騎士団長ぐらいである。
ミナ資源大臣とトリブナーレ法務大臣はアビスとその眷属の下僕になってしまった。
そしてピアンタ工業大臣は豹変したかつての親友トリブナーレを是正すべく、領地の私兵を集めた、それに騎士団長のラガハースが合流し、王都を目指していた。
「お姉様、生意気な人間達がわたし達に逆らおうとしていますわ」
「フフフ、美味しそうな人間達。全員食べてもいいかしら?」
「お姉様、あたし、お下僕と楽しい事を考えたの。遊んでもいいですか?」
魔獣使いのトゥルーが邪悪な笑いをアビスに見せた。
アビスはそんなトゥルーに口づけをする。
「アタシちゃんの魔力を注いであげたわ。さあ、思う存分力を使って遊びなさい」
「ハイッ、お姉様。さあ、あたしのお下僕、遊びの時間よ」
トゥルーはそう言うと自身の影から巨大な骨を呼び出した。
骨は巨大な竜の姿になり、トゥルーはその頭に座った。
「さあ、蘇りなさい。太古の世界の支配者たる巨竜ちゃん」
なんとトゥルーが呼び出したのは、太古にこの大地を支配していたと言われる巨大な竜、巨竜だった。
そう、カイリ達がパレス大将軍の妻であるゴテンとその子供達を助け出した島に居たのと同じ古代の巨大な竜のモンスターである。
二匹の巨竜はトゥルーに従っている。
そしてトゥルーは邪悪な笑顔を浮かべながら、魔力でターナの以前作った動かない移動城砦を材料にし、魔力の鎖を使う事で巨竜が引っ張る超巨大な重戦車を作り上げた!
「コレが巨竜城塞、これで人間共を蹂躙したらとても……楽しそうでしょ!」
「トゥルゥー、アナタ、面白い事考えたわね、キャハハハ!」
アビスはトゥルーの作り上げた巨竜城塞の巨竜の頭の上に座り、トゥルーと肩を並べた。
「さあ、蹂躙の時間よ」
トゥルーは大漁の兵士達を見下ろし、邪悪な笑みを湛えて笑っていた。
――これから未曽有の惨劇が始まる……。




