781 乗っ取られた宮殿
◆◆◆
宮殿内で一人のメイドが死んだ。
だが誰もその事には気が付いていない。
彼女はアンデッドとしてダークリッチのアナに蘇生され、彼女の意のままに動かされている。
「アナタ、わたしの命令には絶対服従。いいわね?」
「はい、お姉様……」
「フフフ、可愛いわ。さあ、仲間を増やしなさい。この宮殿をわたし達魔族で乗っ取ってしまうのよ」
「はい、お姉様」
虚ろな目をしたメイドは、部屋の中でアナ達に身体をいいように弄ばれても何の抵抗もせず受け入れていた。
一度死んだメイドはアンデッドとなり、アナに従属している。
アナはメイドアンデッドの胸に手を入れ、口づけをしていた。
これは単に彼女の性的欲求を満たすものでは無く、魔力を分け与える方法だったようだ。
青い肌になっていたアンデッドのメイド少女は、アナに触れられたところから生前と同じ健康的な肌色になっていた。
これはアナの持つ魔力による見た目の保持によるものだ。
また、相手に魔力を与えるには口から直接与えるのが最も効率的だと言える。
「アナタ、今どんな気分?」
「お姉様、とても清々しいですわ。今なら喜んで子供でもくびり殺せそう」
彼女の言葉を聞いてアナは満足そうに笑った。
「ようこそ、魔族の素晴らしい世界へ」
「はい、お姉様。それで、どうすればよろしいですか?」
メイドのアンデッド少女はアナに指示を聞いていた。
「そうね、アナタの同僚のメイドをどんどんここに連れてきなさい。仕事を手伝って欲しいと言えばまあ疑う事は無いでしょう。そのメイド達の数を増やすのよ。話はその後」
「はい、わかりました。お姉様……」
「フフフ、可愛い子」
アナは魔将軍アビスが彼女の村でやったように、自らの血や魔力を分け与える事で自らの眷属を増やしていた。
アンデッドの少女は仕事だと言っては同僚のメイドをアナ達の部屋に連れて行き、宮殿の大半のメイドがアンデッド化してしまった。
「フフフフフ、これでアビスお姉様も喜んでくださいますわ。これだけ数が増えればこの宮殿を乗っ取るのも時間の問題よね」
「アナ、アンタだけズルくない? アタシだって血が欲しいのよ。いやもっと言えばイケメンの肉が食べたいわよ」
「二人共、ケンカしないの。まあワタシはこの城にいた馬はほぼお下僕になったけどね。騎士団のヤツら、馬がいう事を聞かないって慌てるでしょうね」
ブーコは衛兵や白の中にいる領地無しの貴族の男を部屋に連れ込んでは血を啜り、自らの下僕にしていた。
トゥルーは城にいる馬や牛、庭に住む小動物等を手下にしていった。
この恐るべき魔族達により、一週間もたたずに宮殿の大半が彼女等の手下にされてしまった。
だが、彼女達の賢い所は、それを気付かせない事だ。
魔将軍アビスの眷属である高位魔族の彼女等は、犠牲者に知性を持たせたままアンデッドの眷属化させる事が出来る。
つまり見た目からすぐに分かる青肌や知性の無いアンデッドではなく、見た目は人間や生前の動物そのもののアンデッドの為、知人や家族が見てもアンデッドに入れ替わっていると分からないレベルなのだ。
このような形で、宮殿の大半はもう既に魔将軍アビスの眷属によって埋め尽くされている。
まだ無事で人間だと言えるのは、皇帝とほんの一部だろう。
だが、その人間である皇帝は、アビスの魅了によりほぼ操り人形になっている。
もうこの宮殿の中にはまともに自我を持った人間は誰一人として残っていない。
ここは完全に魔将軍アビスによって掌握されてしまったのだ!
その宮殿にトリブナーレ法務大臣の息子が到着したのは数日後の事だった。
「トリブナーレ法務大臣ご子息、ご到着―!」
アンデッドになったはずの宮殿の従者が大臣の息子の到着を宮殿に伝えた。




