779 皇帝陛下への謁見
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バレーナ男爵の城を後にした魔将軍アビスとその眷属の妹達は、王都に向かっていた。
「さて、アナタ達。そろそろ働いてもらうわよ」
「はい、お姉様。それで、次はどこの人間共を皆殺しにすればいいのでしょうか?」
アビスがクスクスと笑っている。
「お馬鹿さん、何も人間を皆殺しにするだけがお仕事じゃないのよ」
「そうよ、ブーコ。いくら頭が足りないからってお姉様がそんな事するわけないじゃ胃の。人間どもを奴隷にしてこき使って苦しめるのよ。そうですわね、お姉様」
アビスはニヤニヤと笑いながら返答した。
「お馬鹿さん、そんなくだらない事、わざわざアナタ達にやらせないわよ。そんな事は部下のアンデッドか下級魔族で十分」
「わかりました、お姉様がやらせようとしているのは……人間共を魔獣にしてしまい襲わせるんですね、それなら上位魔族であるあたし達じゃなきゃ出来ない事ですから」
「それもハズレ。みんな本当に本当にお馬鹿さんよね」
アビスは意地悪そうに言った。
「アンタ達の言っているのは一部当たっているわ。皆殺しはソイツらにやらせればいいし、ソイツらが人間を苦しめる事もしてくれる、そしてソイツらを魔獣にして人間を襲わせる。全部同じ事なのよ」
「お、お姉様。それは一体……?」
「フフフ、アナタ達には結婚してもらうのよ。この国の貴族と」
アビスの計画は、公爵派だけでなくこの国の貴族全部の掌握だった。
つまり、アビスは彼女達をイミテイト子爵の娘として、帝国貴族に宛がうつもりだったのだ。
「え?! えええっ?? わたし達が汚らわしい人間と結婚!?」
「あら、厭なのかしら?」
「当然です! お姉様以外にこの美しい体を捧げるなんて、死んでも嫌です!」
「あら、それがアタシちゃんの命令でも逆らうのかしら?」
アビスの目が光った。
その目は普段の優しく妹を見守る姉の目ではなく、冷徹に相手を死に至らしめる目だった。
「そ、そんな……お姉様に逆らうなんてっ」
「それなら言う通りにしなさい、これはアタシちゃんからの命令よ」
「ハイ……わかりました」
アナが不服そうにアビスを見つめている。
そんな彼女等をアビスは帝国皇帝グランドに会わせる為に宮殿に向かった。
「おお、アリスか。どうだった、村々の様子は?」
「はい、陛下。村の様子はいたって平穏、皆陛下を讃えておりました」
「そうか、それは良かった。それらの民がいてこの国は成り立っている。俺はお前のような妻を持てて幸せだ」
満足そうな皇帝グランドに対し、アリス皇后の姿のアビスは不快な気持ちを胸の奥底に抱えていた。
魔族であるアビスの好きな物は苦しむ人間の姿、嫌いなものは幸福な人間達の姿なのである。
だから満足そうな皇帝グランドの姿は今の彼女にとっては苦痛でしかない。
「陛下、実はアタシの妹達を連れてきておりまして、彼女達はイミテイト子爵の娘です」
「ほう、イミテイト子爵の娘とな。連れてまいれ」
「はい、ありがとうございます」
そしてグランド皇帝のいる謁見の間に三人の娘達が現れた。
「おお、これは美しい。流石はお前の妹達だ」
「妹とはいえ、腹違いですがね。父が彼女達の親だったのです」
「そうか、イミテイトの女好きならまあ仕方が無いか」
イミテイト子爵とはこの国に本当に実在した貴族の名前だ。
プレイボーイで有名で、彼の息子や娘とまあ大抵は通用したのだろう。
「さあ、アナタ達。陛下の御前ですわ。御挨拶なさい」
「陛下にはご機嫌麗しく存じます。わたしは長女のアナと申します」
「アタシは次女……のブーコです」
「同じく末妹のトゥルーです」
グランド皇帝陛下に挨拶した三人の少女に対し、彼は何の疑いも持たなかった。
「それで陛下、是非ともお願いがあるのですが、聞いて頂けますか?」
「良かろう。話してみるがよい」
アビスの目が怪しく光った。




