778 災厄をもたらす為に
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邪悪な姉妹達の狂乱の宴は続く。
辺りには魔将軍アビスに血を吸い尽くされた少女の屍がいくつも転がっていた。
「お姉様、勿体ないから食べちゃっていいかしら?」
「ええ、構わないわ。でも食べ過ぎに気を付けなさいな」
「はい、では喜んで頂きますわ」
バンパイアロードのブーコは、元々ゾンビからのクラスチェンジなので屍肉を骨ごとバリバリと砕いて食べるのが趣味みたいなものだ。
彼女は犠牲者の少女達の腕や足を噛み砕いて恍惚の表情を浮かべている。
肉で言えばすでに血抜きが終わったのと同じ状態なので、噛み砕いてもこれ以上血は出ない。
そんな死肉を噛み砕くブーコを軽蔑の目で見ていたのはマスターリッチのアナだった。
アナは血よりも生命エネルギーを好み、特に相手の口から吸い取る事を喜びとした。
そして今また彼女によって一人の少女の生命の灯が吸い尽くされて消えた。
「あら。アンタ、ワタシの食いさしがそんなに美味しいのかしら。まあそんなので良けりゃいくらでもあげるけどさ」
アナに血と生命エネルギーを吸い尽くされた少女は最初洗脳されてうっとりした表情をしていたが、どんどんカサカサに干からびて干物のようになって死んだ。
「はい、食べて良いわ」
「ふざけないで、こんな鳥ガラみたいな食べさしいらないわよ!」
「あら、いらないならアタシのお下僕にあげるけど良いかしら??」
そう言って邪悪な笑いを見せたのはトゥルーだった。
ビーストマスターである彼女は、自らの影の中から魔獣を呼び出し、干からびた少女の死体をバリバリと噛み砕いて食べた。
「あまり美味しくないわね、まあ勿体ないから食べるけど……やはり、洗脳よりも恐怖に怯える少女を食べるのが一番美味しいわよ」
ビーストマスターのトゥルーは感覚共有のスキルを持っている。
つまりは彼女自身が食べなくても、配下の魔獣が食事をすればその感覚共有で彼女も自分が食べたのと同じように味を感じ、魔獣が食べた物が彼女のエネルギーになるのだ。
もちろん彼女が食べた物も魔獣と感覚共有の為、魔獣も味やエネルギーを味わう事が出来る。
そんな彼女達を冷静な目で見ているのが仮面をつけた元パティオ子爵令嬢のローサである。
彼女は頑なに魔族になる事を拒否しているが、人間でありながらこの惨状を全く怯える事も無く冷たい氷のような目で見つめていた。
この元バレーナ男爵の城は恐怖の支配者たる魔将軍アビスとその眷属である元人間の魔族の少女達によって惨劇の舞台となっているのだ。
彼女達はこの狂乱の宴を行っている時、大抵は青肌の裸である。
そう、彼女達は欲望の赴くままに喰らい、犯し、殺しているのだ。
そして少女が足りなくなればまた攫いに行く。
これで地図からいくつの村が消えたのだろうか……。
攫われなかった少女達以外の村人はその尽くが殺され、ゾンビにされるだけだった。
ユカ達が地上から離れ、浮遊都市アルカディアにいる間に、地上では魔将軍アビスとその妹達が恐るべき勢いでその範囲を広げている。
そしてアビスはニッコリと笑い、自らの血の姉妹達に語りかけた。
「さあ、アンタ達。そろそろ計画を開始するわよ。お遊びはこれくらいで、もう十分満足するまで遊べたし、体力も回復できたでしょう」
「ええ、お姉様。あのユカ達のせいでどれだけワタシ達がひどい目に遭ったか……」
「そうですわ、ようやく力が戻ってきたって感じますわ」
「わたしも……お下僕がそろそろ暴れたいって騒いでますわ」
アビスは彼女達を見ながらこう伝えた。
「さあ、出かけるわよ。更なる災厄をもたらすために」
「「「はい! お姉様」」」
そして邪悪な姉妹の去った城には、大量の惨殺された少女の屍だけが残された。




