777 邪悪な姉妹達
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「まったく何なのよっ! マジであのユカって奴ムカつくわっ」
「お姉様、あまりイライラするとお肌に良くないかと……」
「あら、アンタ。アタシちゃんの美貌はそんなにすぐに崩れると思っているのかしら?」
魔将軍アビスがアナを睨みつけた。
その凝視は絶大な魔力を持っており、バンパイアロードのはずのアナはアビスの目の前にすぐに跪かざるを得なかった。
「お姉様、申し訳ございません!」
「まあいいわ。それよりも何かこのイライラを解消するいい方法無いかしら?」
「お風呂に入りません? 今日も良い血を湛えいますわよ」
「フフフ、そうね。みんなで血浴みしましょうか。今日はスッキリしたいからみんな可愛がってあげるわ……」
「「「はい、お姉様」」」
マスターリッチのアナ、バンパイアロードのブーコ、ビーストマスターのトゥルー。
三人は元人間であるが、魔将軍アビスの洗礼を受けて魔族になった。
そして人間離れした美貌を手に入れた彼女達を見つめながらアビスは次の恐るべき計画を考えていた。
「そうね、そろそろ次の段階に移行しようかしら」
「お姉様? 一体何をするのですか?」
「フフフ、みんなにはそろそろ働いてもらいますわ。でも、あの公爵派貴族ってのどれもこれも使い物にならなかったわね」
「所詮人間、ワタシたち魔族のエサになる存在でしか無いですわ」
アビスは妹を見つめ、微笑んだ。
「あら、アンタ元々人間だったじゃない? それなのに未練とか全く無いのかしら?」
「未練? 所詮人間なんて下等な存在。この素晴らしい魔族の世界に誘ってくれたお姉様のおかげでワタシは今最高の人生を送っているのですわ」
「あら、人を辞めたのに人生って、何かおかしくないかしら?」
アビスが意地悪そうに笑っている。
「そ、そんなのは言葉のアヤですわ。お姉様の意地悪」
「フフフ、可愛い子……」
そう言ってアビスはアナに濃厚なキスをした。
彼女の口からは先程血を吸い尽くした少女の血が垂れてきている。
その血をアビスはアナに口移しで飲ませていた。
「そうね、でもこんなにゆっくりしているのは今日くらいまでよ。あの空帝戦艦が無ければ所詮公爵派なんて口だけの連中なのだから。あのパレス大将軍がアタシちゃんのいう事を聞けばもっと楽だったのに、あの堅物……何でアタシちゃんのテンプテーションが効かなかったのかしら?」
アビスはブツブツと何かを言っていた。
だが彼女の妹達はすぐにそれに反応した。
「お姉様、ワタシお姉様の為でしたらいくらでもこの命を捨てますわ」
「ありがとう、でもね。アンタの命なんて何の価値も無いのよ」
「お姉様……何故!?」
「フフフ、おバカさぁん。そうじゃないわよ。必要無いって意味じゃないの」
アナが悲しそうな顔をしたのを、アビスは頬を舐めてから笑った。
「あのね、アンタ達の命なんて、無限なの。だからいくら投げ捨てたところですぐに元に戻るわ。試してみる?」
そう言ってアビスはいきなりアナの身体に全力で魔力を吹き込んだ!
すると、魔力の量に耐えきれなかったアナの身体は一瞬で吹き飛び、横にいたブーコとトゥルーは少し驚いたようだった。
「フフフ、あら。死んじゃったわね」
「お姉様、一体アナに何をしたのですか?」
「あら、少し魔力を全力で注いであげただけよ、でも身体は耐えられなかったようね」
アビスは吹き飛んだアナの残骸を見て笑っている。
流石にアナと仲の悪いブーコとトゥルーもそれを見ては同情をせざるを得なかった。
「ほら、そろそろ始まるわよ」
「え?! えええぇえぇえ?!」
なんと、吹き飛んだアナの破片は再び一か所に集まり、そこには青肌で裸の姿のアナが再生していた。
「お姉様、酷いですわ」
「ほら、でも元に戻ったでしょ。だからアンタ達の命なんて投げ出す価値無いって意味わかった?」
「……」
アナは理由は分かりつつも何だか腑に落ちない感情が抜けなかった。




