771 黒竜王ヘックス
「こ……黒竜王ヘックス、まさかあの――伝説のドラゴンが……」
「ジバ様はヘックスを御存じなのですか?」
「私も直接見たわけではない、だが、黒竜王ヘックスは、創世神クーリエ様、その弟神アジャスト様、そしてゴルガ軍国の軍王ゴルガまでもが協力して戦った世界の脅威です」
ゴルガ軍国の軍王ゴルガ!
あのボク達の戦った空帝戦艦アルビオンやウルティマ・ザイン、オルビス・ザインを作ったと言われている古代文明の帝国、そして王の名前だ。
「ですが黒竜王ヘックスはクーリエ様の力で封印され、二度と暴れる事が出来ないようにされたはずなのですが、それが蘇ったというのですか」
「妾は魔王ゾーンと戦う時に、ヘックスのバカと一緒に戦ったけどねェ」
「「「!!!」」」」
大魔女エントラ様のこの発言に周囲が震撼した。
「エ、エントラ様、それは……本当ですか?」
「そう、本当だねェ。アイツ、確かに創世神に封印されたと言っていたけど、どうやら獣人の少女に封印を解いてもらったらしいんだねェ。その後彼はその娘を助ける為に邪神ダハーカと戦ったそうだねェ」
「なんと、我々は地上に不干渉だったのでそれは存じ上げませんでした」
ジバ総司令がエントラ様に頭を下げている。
「まあどうやらヘックスはその後倒したダハーカに呪いをかけられた少女を助ける為に世界中を駆け回ったようだねェ、それでも方法は見つからなかったんだけどねェ」
「信じられん! あの世界の脅威とも言われた黒竜王が一人の獣人の少女の為にそこまでするとはっ!」
「まあそれでも結局方法が見つからず、諦めて寝ていたのをどうやら妾達が起こしてしまったみたいでねェ、その後大ゲンカしたわけ」
この話は以前大魔女エントラ様に聞いた話だ。
これを聞いたアルカディアの人達はその件でも驚いていた。
「ま、まさかあの黒竜王と神々やゴルガ文明の力以外で戦うとは……」
「まあその後和解して、妾の仲間のテラスちゃんが聖なる魔力で呪いを解いてあげたってワケだねェ。それを恩義に感じたヘックスが妾達の魔王退治に協力してくれたってワケ」
「なるほど、経緯はよくわかりました。でもそれとアルビオンの消滅、それはどう関係あるのでしょうか?」
大魔女エントラ様が少し困ったような顔を見せた。
「そうねェ。どうやらその獣人の少女が亡くなった後、彼は再び眠りについたんだろうねェ。けど、ここにいるユカがアルビオンを倒そうとした時に発揮した力がどうやら寝ていたヘックスを起こしてしまったみたいで、それで怒って攻撃してきたんだろうねェ」
大魔女エントラ様は飄々としながらサラッとこの話をしているが、聞いている側は驚きの連続だったらしい。
「し、信じられん! まさかあの黒竜王ヘックスが獣人の少女の為に力を使うとは……その少女には一体どのような力が!?」
「いや、特に何の力も無い普通の娘だったねェ。まあ一つ言えるのは、ヘックスがその子に惚れていたんだろうねェ」
「その獣人とは、俺達の祖先のフワフワ様だ。俺達はどうやらそのヘックスの子孫という事になるのかもしれない」
アルカディアの人達は大魔女エントラ様やフロアさん達の話を聞き、ようやく状況を理解したようだ。
「成程、とにかく今のヘックスは我々とは敵対するつもりは無いという事ですか、ですがユカ様の攻撃で間違えて起こされてしまった為、攻撃を仕掛けてきた。こう考えれば良いのですね」
「大体それで合ってるねェ。まあ下手にヘックスをつついて起こさない限りはアイツから攻撃仕掛けてくるという事は無いだろうねェ」
それを聞いてジバ総司令は安堵していた。




