764 伯爵の想定外の事
空帝戦艦アルビオンが消え、公爵派貴族の大半は戦艦ごと黒竜王ヘックスによって消滅させられた。
だが、それでこの国の脅威が収まったのかといえばまだそうではない。
テリトリー公爵は小型飛行艇で脱出し、帝国の貴族に扮した魔将軍アビスとその妹と呼ばれる眷属の魔族は無傷のまま姿を消した。
つまりはまだ敵が全部いなくなったわけではない。
その状態なのにボクの剣、新生エクスキサーチはパレス大将軍との対決で刃こぼれと刀身へのヒビでもうボロボロになっている。
この状態でもし最悪、黒竜王ヘックスや魔将軍アビスと戦う事になっても剣が持たない。
ボクはその事を考え、この剣を修復できるかもしれない魔技師のいるアルカディアに向かおうと考えた。
「ユカ様、この後はどう動く予定ですか?」
「伯爵様、ボク達は一度アルカディアに向かおうと思います」
「アルカディア? それは一体……?」
「はい、高い闇、この天空高くに存在する空を飛ぶ大きな島です!」
ボクの話を聞いたゴーティ伯爵がすっ転び、手に持っていた紅茶をこぼしてしまった。
「アチチチチッ! な、何ですか!? その空飛ぶ大きな島とは!?」
「はい、ボク達はアンさんに乗せてもらい、高い山の遥か上空、高い闇に到着しました。そこは不思議な場所で、真っ暗で光の無い世界でしたが、そこには島があり、古代の創世神の信徒の末裔が住んでいる場所だったのです」
ゴーティ伯爵が唖然とした顔をしている。
「お父様、私も最初信じられませんでしたわ。でもユカ様が言っているのは本当なんです」
「父上、僕もそこに行きました、そこには巨大な黄金の巨神がいたのです」
「い、いや。流石に私の理解の想定外でビックリしましたが、あの巨大な黄金の鳥の空飛ぶ船を見れば信じないわけにはいきません。アレはどう考えてもこの時代のモノではありませんから……」
どうにか冷静を保とうとしていたゴーティ伯爵だったが、空のカップを逆に持っている。
彼はどうやらまだ混乱しているようだ。
「そしてボク達はその場所でもう一つの島の事を聞きました。それがエルドラドだったのです。そこには機械で出来た破壊神バロールが存在し、ボク達はそいつを全員で協力して倒したのです」
「バロールだって!? あの、伝説の破壊神!???」
どうもこの話はゴーティ伯爵の心臓に良く無さそうだが、ボク達は嘘を言うわけでもないので……このまま話を続けた。
「伯爵様はバロールを御存じなのですか?」
「いや、おとぎ話で聞いたのと、過去の文献や考古学の範疇で見かける名前だったのですが……まさか実在したとは。しかし伝説の破壊神バロールは、海を燃やし山を砕くほどの怪物、ユカ様達はそれを倒したというのですか?」
「はい、ボク達全員で力を合わせて倒しました」
「じゃあ倒した証拠の一部を見せようかねェ」
大魔女エントラ様が異空間にしまったバロールの欠片を少し取り出し、ゴーティ伯爵に見せた。
「間違いない、これはオリハルコンの欠片……パレス大将軍の剣以外でコレを見たのは私も初めてです……」
オリハルコンに触れたゴーティ伯爵はまるでおもちゃを貰った子供のように目を輝かせていた。
「いやはやもう想定外の事ばかりで私の理解に追いつきませんよ……救世主ユカ様、どうぞこれからも私達の為に力をお貸しください」
「そ、そんな……救世主だなんて、ボクはただのユカ・カーサですよ」
「そんな事はありません、貴方は創世神クーリエ様の遣わした神の信徒に違いありません!」
いや、そのクーリエはエリアさんとしてボクの傍にいるんだけど……。
ボクが目線を合わせると、エリアさんは何だか困惑したような困った表情をボクに見せた。
まあいきなり創世神クーリエの話をされたんじゃ仕方ないな。