762 大将軍の子供達
飛行艇グランナスカが到着すると、ゴーティ伯爵の城の周りには大量の人が集まってきた。
大勢の住人がボク達を歓迎してくれているようだ。
まあ僕達が帰ってくる=空帝戦艦アルビオンを倒した、と思っているようだ。
まあ、実際勝てたから帰ってこれたわけだが、でも実質的にはボク達が倒したというよりはあの伝説の黒竜王ヘックスが消滅させたといった方が正しい。
しかしこの事は一旦黙っておこう。
下手に人々を怯えさせるのも良くなさそうだ。
「みんな、到着したよ!」
ボク達はグランナスカを広場に着陸させ、そこから地面に降りた。
地面に降りたボク達に住民のみんなが駆け寄ってきた。
その中には北東の村の人達や空帝戦艦アルビオンに捕まっていた人達もいた。
「おお、ユカ様。おかえりなさいませ」
「うん、みんな……ただいまっ!」
ボク達は住民の歓声に包まれたまま、ゴーティ伯爵の城に入城した。
城の中では多くの人達が僕達の祝賀パーティーの準備をし、慌ただしい雰囲気が伝わってきている。
「おお、ユカ様。ホーム様、ルーム様……皆様お帰りなさいませ」
「うん、ただいま。お父様はどちらに?」
「旦那様は大広間で皆様をお待ちです」
大広間に到着すると、そこでボクは聞き覚えのある声を聞いた。
「よう、ユカ。お帰り。よく頑張ったな!」
「その声は……父さん! 何故ここに?」
「ゴーティ伯爵様に呼ばれてな、ウチの村で新たな住民を迎え入れる事は出来るか? という話だったんだ」
「そうなんだね。それじゃあここにいるのは父さんだけ?」
「いや、母さんもピラーもルーフもいるぞ」
どうやら父さんは家族全員でゴーティ伯爵に呼ばれていたようだ。
父さんの後ろには綺麗なドレス姿の母さんもいた。
「おば様……綺麗、まるでお母様みたい……」
「あらあらっ、ルームちゃん。お久しぶりねっ」
「ええ、おば様。お久しぶりです」
ホームやルームの母親とボクの母さんは姉妹だった。
だから彼女の母親がボクの母さんそっくりなのもうなずける。
どうやらこのパーティーには色々と大勢の人達が参加しているようだ。
全員がお祭りムードの中……ボクはパレス大将軍の奥さん、ゴテンさんと目が合った。
「パレス大将軍の奥様……」
「あの人は、立派でしたか……?」
「はい、彼は最後の最後まで力の限り戦い抜きました。彼は死してなお立ち続ける程の精神力で大事なものを守ろうとしたのです」
パレス大将軍の奥さんの目には涙が浮かんでいた。
「ねえ、父さんは? 父さんは一緒じゃないの?」
「お父様はね……みんなを守る為、星になったのよ……」
「――うそだっ! 父様はきっと帰ってくると言ってくれた、それなのに……それなの、に……」
パレス大将軍の子供達は泣いてゴテンさんの長いスカートにしがみついていた。
ボクはそんな彼等にとても本当の事を伝えるわけにはいかなかった……。
「二人共、お父さんはみんなを守る為に立派に戦ったんだよ。コレはお父さんからの預かり物だから、二人共、この重さがお父さんの持っていた重さなんだよ」
ボクはパレス大将軍に託された愛剣、天宮の衝撃を二人に手渡した。
剣はとても重かったらしく、一人は持った瞬間こけそうになっていた。
「お、重いよぅ……父様、こんな重い物持ってたんだ……」
「これ、父さんのけん?」
二人の子供達は剣を二人で抱え、よたよたとしていた。
「うん、二人共、この剣を二人であずかってほしい。それがお父さんの……パレス大将軍の願いだったから」
「うん。ぼく、父さんみたいなりっぱなしょうぐんになるんだ!」
「父様、立派だったんですね」
二人の子供達はもう泣いていなかった。
父親、パレス大将軍がもういないのはどうやら理解したらしい。
それよりも、その二人を見ていたパレス大将軍の奥さんのゴテンさんの方がハンカチで顔を隠して泣いていたようだった。