761 吹っ切ろうとする心
少しして部屋からターナさんが出てきた。
「ユカ、みんな。心配かけたね。アタシはもう大丈夫だよ」
そう言っていたターナさんは化粧の跡に涙が滲んだらしく、目元が少し赤くなっていた。
「ターナさん……」
「ユカ、それ見せてみな。アンタの剣だよ!」
ボクは新生エクスキサーチを彼女に手渡した。
「あらあら、可愛そうなことになってるねー。コレってこの前修理したばかりだろう?」
今ボクの持っている新生エクスキサーチはターナさんにオリハルコンを使って改修、改造してもらった物だった。
しかしこの剣、いくらオリハルコンで出来ているとはいえ、オリハルコンで全身の装甲が作られた機械の破壊神バロールや、世界最強のオリハルコンの剣天宮の衝撃を持つパレス大将軍といった強敵と戦った事で相当刃こぼれや刀身へのダメージがデカい。
「ユカ様、コレって使えないですか?」
「これは……ホームさんの使っていた剣ですか?」
「はい、アルカディアで手に入れた折れた剣です」
ホームさんが見せたのは彼がオーラの剣の根元として使用していたオリハルコンの剣だった。
素材が同じなら確かに修理は可能だろう。
だが、ターナさんは何か渋い顔をしていた。
「確かにこれはオリハルコンの剣だったものだね。でも何か別のものを感じる。ホーム、コレって何かしたの?」
彼女はホームさんに対して問いかけていた。
どうやら折れたオリハルコンがタダの剣ではなくなっているらしい。
「何か……というと、僕の生命エネルギーをこの剣に注ぎ込んでオーラの剣を作ったくらいです」
「成程ね、これはただのオリハルコンではなくなっているみたいだからさ」
ただのオリハルコンではない? オリハルコン以上の何かがあるのか??
「オリハルコンは魔導金属、持ち主の魔力に連動して特性を変える。このオリハルコンは強い生命エネルギーを宿した事で、破邪の力を持っているって事よ」
「破邪の力?」
「簡単に言えばアンデッド特効かな、それと実体の無い敵も斬れるようになっている聖剣化ってとこだね」
なるほど、ホームさんの持つ生命力が剣に宿った事で、剣が聖剣化したわけか。
「でもそれだけに他の金属と混ぜて使えないのよ、これは一度持ち主が決まってしまうと他の人が使おうとすると魔導金属が拒否反応を起こして効果を発揮しなくなるからね」
なるほど、つまりこの折れた剣は武器として使うにはホームさん専用の武器に使うしか出来ず、ボクの剣の修理には使えないというわけか。
「そういうわけだから、ユカの剣の修理はこの折れた剣では無理って事だね。むしろこれはホーム用に作っていたこの剣の強化に使った方がいいね」
そう言ってターナさんが見せたのは、空帝戦艦アルビオンから持ってきた布に包まれた剣だった。
「――こ……これは、僕の魂の……救済者」
「そう、アンタの為に修理しておいた剣だよ。でもせっかくだからそのオリハルコンも使えばさらにアンタの剣を強化できるけど、どうする?」
「わかりました、お願いします!」
「わかった、ところでアンタ、大剣と双剣ならどちらを選ぶ?」
確かにこの剣を強化するとして、折れたオリハルコンの剣を使えば金属の量が倍以上になるので大剣か双剣としてしか改修出来なくなる。
「僕は、騎士です。双剣だとどちらかというと冒険者や盗賊みたいなイメージですから……むしろ、弱き人々を守る大きな剣として、また盾として使えるようにしたいです!」
「決まりだね。わかった、それじゃあ到着したらそういう感じで進めようね」
ターナさんはニッコリと微笑んだ。
彼女はパレス将軍への思いの悲しみを仕事する事で吹っ切ろうとしていたのか……。
そしてボク達の飛行艇グランナスカは、ついにゴーティ伯爵の城に到着した。