760 ターナの心境
ボク達は飛行艇グランナスカでゴーティ伯爵の城を目指していた。
ソウイチロウさんが言うには自動操縦モードというものがあり、ボクが運転しなくても勝手に動いて伯爵の城に到着してくれるらしい。
古代文明やソウイチロウさんの世界には便利なものがあったんだなーとつくづく感じる。
ボク達は船の中でそれぞれが自由にしていた。
「パレスさん……」
「ターナさん、元気……出してください」
「……はっ、そうだね。落ち込んでる場合じゃないよね。それにアタシにはあのコングくらいがちょうどいいってもんだよ。さあ、お仕事お仕事……」
ターナさんは明るく振る舞おうとしているが、パレス大将軍の事を吹っ切れていないみたいだ。
あの空帝戦艦アルビオンの中で何があったのか、ボクは知らない。
でもパレス大将軍は軍人であると同時に立派な紳士だったようだ。
彼が家族を人質に取られて敵対しなければ、ボク達はきっと彼と戦う事は無かっただろう。
ボクはパレス大将軍の愛剣を見つめ、彼との戦いを思い出していた。
彼はボクが戦った敵の中でもかなりの強敵だった。
今までの戦いはみんなとの協力で勝てたが、パレス大将軍との戦いはボク一人の一騎打ちだった。
ボクは新生エクスキサーチのおかげで勝てたが、もしその剣が無ければボクの負けだっただろう……。
ボク達はパレス大将軍の意志を引きつぎ、この国の公爵派悪徳貴族を倒してこの国を変えて見せる!
そして、彼の子供に父親が立派だったと伝えて、この剣を手渡さなければいけない。
「ユカ……」
「あ、エリアさん。どうしたの?」
「ユカ、悲しそうな顔をしていたから……」
エリアさんにはボクの気持ちが分かっていたらしい。
彼女はボクの頭を優しく撫でてくれた。
「ユカ、それはユカにだけしか出来ない事……」
「うん、ボクが責任を持って伝えるよ」
「大丈夫、ユカならできるから」
エリアさんはボクに優しく微笑んでくれた。
「みんなぁー、食事だよぉー」
「お、美味そうじゃねーかよー」
「フライを入れて挟んだパンだよぉー」
マイルさんが食事を用意してくれた。
コレって確か、今はヘクタールって呼ばれてる食べ物だったっけ?
ボク達が倒したヘクタール男爵の考案したパンに具材を挟んで片手で食べられるようにしたもの。
『ユカ、これは私の世界ではサンドイッチという名前だったぞ』
『サンドイッチ? 何ですかその変な名前?』
『サンドイッチ伯爵という人物がカードゲームをしながら食べれる食事という事で考案したので彼の名前が付いた食べ物だ』
『人の名前が食べ物にって、ヘクタールも人名だから似たようなモンなんだね』
なるほど、場所や世界は違っても人が考えるような事って似通ってくるもんなんだな。
「ユカ、さっきから何独り言ブツブツ言ってるんかねェ」
「あ、ご、ごめん」
「まあ急いで食べないといけないわけじゃないから、到着までゆっくり食べたらいいよねェ」
ボク達はみんなで談笑しながら食事をしていた。
それでもやはりターナさんは浮かない顔だった。
それも仕方ないだろう。
「ターナさん、貴女は誰も殺してはいなかったのですから、それほど気に病む事もありませんよ」
「それは分かってるんだけどね。でもどうしてもアタシの頭の中でどうもスッキリしないんだよ」
これはまだしばらく落ち着くまで時間がかかりそうかもしれない……。
「すまない、しばらく一人にさせて……」
ターナさんはそう言うと船内の部屋に入り鍵を閉めた。
彼女は食事の後、一人で船の一室に入り、布で包まれた物を見つめていた。
その中に入っていたのは彼女がボク達の為に作ってくれたという武器防具だった。
「パレスさん、アタシどうすれば良いのかな……」
ターナさんは誰もいない部屋で、一人泣いていた。
飛行艇グランナスカはそんなボク達を乗せ、ゴーティ伯爵の城の近くまで飛行していた。