759 眠りについた黒竜王
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俺様は泣きながら空を飛び続けた。
それが大嵐を呼び、雷雲を巻き起こしていたとはその時は全く気が付かなかった。
ただ俺様にあったのは慟哭だけだった。
温かい、優しいの反対は寒い、厳しい……――そう、俺様は孤独になってしまったのだ。
確かにフワフワと俺様の間に子供達、孫達はたくさん出来た。
だが、それはあくまでも獣人のヘックス爺さんであって、俺様の本来の姿である黒竜王ヘックスを知る者はいない。
あの三人もフワフワと同じか、あるいはもっと早くに亡くなっている可能性もある。
獣人の寿命は人間達より少し長かったのだ。
俺様は黒い光の膜でフワフワを覆い、いつまでも空を飛び続けた。
黒い幕が彼女の事を守ってくれたのか、フワフワの亡骸はいつまでも同じ姿のままだった。
そして飛び続けた俺様は知らず知らずのうちに元居た山に戻ってきた。
そうか、ここは俺様がフワフワを守りながら眠り続け、エントラに起こされた場所だったか……知らず知らずのうちに来てしまっていたんだな。
俺様はその山でフワフワの亡骸を守りながら眠る事にした。
もう起きるつもりはない。
俺様はフワフワを守り、永遠に眠り続けよう。
「フワフワ……俺様はこれからもずっと一緒だ……」
そして俺様は黒い幕で辺りを覆い、永遠に眠った……。
◆◇◆
「――とまあ、こういう話があったわけさねェ。だからロリコンのドラゴン、ロリゴンってワケ」
「ちょっと待ってくれ! フワフワ様って……俺達の大婆様の名前じゃないのか!」
「我、フワフワ族。大婆様の名前フワフワからついた名前きく」
って事は、フロアさんやサラサさんって獣人とドラゴンの末裔って事!?
「成程ねェ。まあそりゃあ永遠に眠ると決めたアイツの事を起こしたらブチ切れるわねェ。まあ間違ってもそうならないだろうけど、フワフワちゃんの亡骸に攻撃が当たっていない事を祈るだけだねェ」
「もし、それが攻撃が当たっていたら……?」
「そうねェ。ブチ切れて世界終わるかもねェ」
この人は何をそんなにあっけらかんとしているんだ!?
「とにかく、そのヘックスさんをこれ以上起こさなきゃいいんですよね」
「そうねェ。アイツが起きたら国どころか世界すら危機が訪れるかもねェ」
とにかく黒竜王ヘックスの件は置いておこう。
下手に起こしたら世界の破滅って事だけは分かった。
「それよりも邪神ダハーカってのが何者か気になるんだけど」
「そうねェ。アレは三つに分かれたってヘックスが言ってたねぇ。一つは邪神竜ザッハーク、もう一つは邪神ダハーカ、それと魔王ゾーン、この三つかねェ」
魔王ゾーンっていうのがボクの先祖であるバシラさんとレジデンス兄弟の先祖であるテラス様、そして大魔女エントラと黒竜王ヘックスが協力して倒したって奴なんだな。
そして邪神竜ザッハークはフワフワ族の集落近辺に出没した黒い三つ首のドラゴンでボク達が倒した相手。
邪神ダハーカというのがどんな姿なのかはわからない。
だがこの三つが重なると再び邪神が復活してしまうという事は分かる。
「さあ、これからどう動こうか」
「まあ一度ゴーティ伯爵に会った方が良さそうだね」
「そうだなー。パレス大将軍の剣も届けてやらないといけないんだろー」
ボクは両手でパレス大将軍の剣、天宮の衝撃を持った。
ズシリとした重さが両手に伝わってくる。
本当の事を子供達に伝えるのは酷だ、だから彼は数多くのモンスターから人を庇い戦死したと伝えよう。
「みんな、ゴーティ伯爵の城に向かうよ」
ボクは飛行艇グランナスカの舵を切り、西南西の方向を目指した。
空帝戦艦アルビオンはもう無い! これなら空を自在に飛べる!
ボク達は茜色の雲を突き抜け、大空高く飛んだ。