758 フワフワの子供達
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本当の俺様はドラゴンだ。
だが、誰も家族のいなくなってしまったフワフワには家族が必要。
だから俺様は魔力で彼女と同じ獣人の姿に変化した。
「ヘックスさん。オラ、いつまでもヘックスさんと一緒にいたいだ」
「ああ。俺様もフワフワのそばを離れん。いつまでも一緒だ」
最初は子供の作り方なんて知らなかった俺様だったが、一度やり方が分かったら、二人の相性はとても良かったようだ。
フワフワは俺様を喜んで受け入れた。
そしてしばらくすると、フワフワに子供が生まれた。
なんと小さな姿だ、これが俺様とフワフワの血を継いだ子供なのか……。
俺様の本体がドラゴンなので、この子供はドラゴンの力を継いでいるとも言えるが、残念だが俺様みたいにドラゴンの姿になる事は出来なそうだな
仕方ない、俺様はフワフワと共に生きる為にドラゴンであった事を子供達には教えないようにしよう。
子供の生まれた俺様達を祝福して、バシラ、テラス、それにエントラが俺様達の元を訪れた。
「へえ、これがフワフワちゃんとヘックスの子供。可愛い……」
「ヘックス、フワフワ。おめでとう! って、フワフワの隣にいるのがヘックス!? ドラゴンの姿じゃないんだ……」
「何やる事しっかりやってるのさねェ。このロリコンドラゴン……略してロリゴンが。あ、今はドラゴンの姿じゃないからただのロリコンかねェl」
減らず口を叩きながらも、二人だけでなくエントラも俺様とフワフワの事を祝福してくれているようだ。
「でもヘックス、ドラゴンの姿はどうしたんだ?」
「実はな、フワフワにはもう身内が誰もいないから……だから俺様が同じ姿になってやったんだ。まあ子供が生まれた事でもうフワフワも寂しくないだろうけどな」
「それじゃあヘックスさんはドラゴンだった事は子供達には教えないわけですか」
「まあその方が、下手に噂が立ってロリコンのドラゴンが出たーとか言われなくていいかもしれないねェ」
俺様はフワフワと一緒にいる限り、ドラゴンの姿はだれにも見せない事にした。
まあこの姿のままでも、フワフワや俺様の子供達を守るのには十分戦えるので問題は無い。
もう邪神が現れる事も無いだろう。
しかし、まさかここの俺様とフワフワの家から少し飛んだ場所にあの忌々しい邪神を祀る神殿があるとは気づかなかった。
まあ邪神も魔王も消えた今は放っておいても問題は無さそうだろう。
俺様とフワフワはその後もどんどん子供を増やし、その数は小さな村が出来るくらいになった。
「オラもすっかりおばあちゃんになってしまっただ。ヘックスさん、あんたオラにわざわざ合わせなくても良いだよ」
「何を言う、俺様はお前とずっと一緒にいるといっただろう。だからお前と同じように過ごしたいのだ」
俺様は魔力で少しずつ年を取ったような外見に変化させ、すっかり白髪の老人の姿になっていた。
「じいじー、ばあばー。こっちへおいでよー」
「はいはい、わかりましただ」
「おう、少し待ってろ」
子供達もすっかり大きくなり、孫やひ孫まで増えたくらいだ。
しかしどうやら俺様のドラゴンの姿、力は誰にも受け継がれなかったようだ。
この変化した獣人の姿が俺様にも板についているといったところか……。
だが、俺様とフワフワの素晴らしい毎日にもついに終わりが来てしまった……。
「ばあちゃーん、死んじゃやだー!」
「お母様、お身体は……」
「おふくろ、待ってろ、今すぐ元気のつく食べ物採ってきてやる!」
「もうええだ。オラ、とても長生きできただ……」
ドラゴン以外の生き物の寿命は短い。
「――オラ、昔……ドラゴンさん……ヘックスさんの背中に乗せてもらって世界を旅したのが……一番楽しかった……だ」
すっかり老人になり、寝たきりになってしまったフワフワは……多くの子供達、孫たちに見守られながら息を引き取った。
彼女の遺体は息子達、孫達に高い山の上に運ばれ、朽ち果てた祭壇の前に置かれた。
奇しくもそこは邪神ダハーカの生贄として彼女が捧げられようとした場所だった。
家族が全員帰り、誰もいなくなった後、俺様は彼女を抱きかかえ……ドラゴンの姿に戻った。
――そして彼女を抱え、俺様は号泣しながらいつまでも空を飛び続けた……。