757 誰もいない廃墟の村で
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バシラ達に別れを告げた俺様は、フワフワを背中に乗せて世界中を飛び回った。
「ヘックスさん、オラ……世界がこんなに広いとは知らなかっただ。オラ、村とその周りくらいしか行けなかったから」
「そうか、それなら俺様と一緒に世界を見て回ろう。そうすればいずれ住むのに良い場所も見つかるだろう!」
俺様は翼を広げ、空高く舞い上がった。
彼女が喜んでくれている。
それが俺様にはとても満たされた気分だった。
そうか、これが嬉しい、楽しいといった感情だったのだな。
フワフワと出会えなければ俺様は一生この気持ちを知る事は無かっただろう。
「フワフワ、お前は何が見たい?」
「オラ……ヘックスさんと一緒に色々なものを見たいだ。海、砂だけの場所、木がたくさんの森、色々見せてもらっただ。これからももっと一緒に色々と見たいだ」
「そうか、それではスピードを上げるぞ!」
俺様はより多くのものを彼女に見せてあげる為、速度を上げて世界中を飛び回った。
この広い世界を飛び回り、元居た場所に戻ってきたのが大体一年後だった。
「ふう、これで世界中はあらかた見たな。フワフワ、お前に聞きたい、お前はどこに住みたい?」
「オラ、山に囲まれた綺麗な森のとこに住んでいた。かつてオラの村のあった場所だ」
「そうか、ではそこに行ってみるとしよう」
俺様はフワフワの住んでいたという山の奥に向かった。
そこで俺様は今までに無いひどい目に遭いそうになった。
「!? 何故だ……俺様が飛べんだと!?」
「キャアアアァー!」
彼女の村のあった辺りに近づいた俺様は、崖の上でいきなり空を飛べなくなってしまった。
このままでは地面に墜落してしまう!
「マズい。ここは一旦地面に降りなければ!」
俺様はワケもわからず、崖から離れてフワフワを傷つけないように山の斜面に不時着した。
どうやらこの崖には魔力を無効化する何かがあるようだ。
「フワフワ、怪我は無いか?」
「オラ、へいきだ。ヘックスさんが守ってくれたから」
フワフワは小さく、儚げな女の子だ。少し成長したといってもそれは変わらない。
「そうか、どうもここでは俺様は空は飛べなそうだが、歩くしかあるまい」
「もう必要ないだ。オラの村、ここだっただ」
彼女はそう言うと、建物のある方に向かった。
だがここには人の気配が全く感じられない。
多分、彼女が邪神の呪いで眠らされていた間に滅びてしまったのだろう。
「あ……あぁ……、う、うううぅぅ……」
「どうした、フワフワ」
彼女は泣いていた。
せっかく戻ってこられた村、だがそこには誰もおらず……住んでいた場所はボロボロに朽ち果てていたのだ。
「フワフワ、泣くな……俺様がいるから」
「でも、オラ……オラ……」
俺様は彼女を抱きしめてやろうと思った、だがこの巨体では彼女を握りつぶしてしまう。
そして俺様は魔力を使い、彼女と同じ獣人の姿に変化する事にした。
「ヘックス……さん?」
「そうだ、俺様だ。フワフワ、もうお前は一人ではない。俺様が一緒にいてやるから」
「う……。うぅぅ……うわぁああああんっ‼」
俺様が優しく抱きしめてやると、フワフワは一層大きな声で泣き出してしまった。
そして彼女は獣人の姿になった俺様にピッタリくっつくようにしがみついてきた。
トクントクンという彼女の鼓動が聞こえる。
これは巨大なドラゴンの姿の時には気づかなかった感覚だ。
俺様は泣き続ける彼女をしっかりと抱きしめてやった。
そうか、彼女にはもう誰も身内がいないのだ。
それなら俺様が家族になってやろう。
「フワフワ、俺様と家族にならないか……」
「はい。ヘックスさん。オラ……ヘックスさんの子供が欲しいだ」
子供と言われても……俺様はよくわからんぞ。
だが、彼女の願いを聞いてやろうと思う。
もう彼女には家族と言えるのは俺様だけだからな……。




