753 お前の名は……
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バシラは村の偉い人間を説得してくれたようだ。
この村の一番偉いと思われる奴が、バシラの話を聞きうなずいている。
「なるほどのう、そういうわけじゃったか」
どうやら話はまとまったようだ。
「黒竜王ヘックス様、ワシらはただの村人じゃ。そなたの望む事全てを聞くわけにはいきません」
「それでは、この娘を村に置く事は出来ないという事か?」
「いいえ、そうではありません。ただ、この村も人手が足りないのでその子を預かるなら条件があるという事です」
どうやら俺様相手に条件があると言っているらしい。
以前の俺様なら下等な人間が! と突っぱねたかもしれないが、この娘の為だ。
話を聞いてやろう。
「ほう、条件だと?」
「はい、その子をタダでこの村の客人として特別対応出来る程の余裕はないという事です。ですのでその子にもこの村で働いてもらいたい。それがこの村にその子を預かる条件になります」
「オラ、働くだ。みんなのために働く」
獣人の少女はこの条件で良いと言っているようだ。
「わかった。彼女もそれでいいと言っているようだ。だが、この娘をこき使っていじめるような事をしたら……その時は村を滅ぼす、良いな!」
「ももも……勿論です。世界最強の黒竜王様に逆らうつもりはとてもありません!」
「ヘックス、大丈夫だよ。この村の人達、みんな優しいから」
「そうか、それでは……脅して悪かったな。この娘の事を頼むぞ」
バシラが俺様に注意してきた。
うむ、少し脅しすぎたかもしれん。反省せねば。
しかし俺様も丸くなったものだ。
以前なら人間と交渉などする事も無かっただろう。
「決まりね、それじゃあ貴女、この村の一員になるのよね。名前を教えてくれる?」
「オラ、名前……無いだ」
「えっっ!?」
「オラ、元々名前無かっただ。村のみんなにはみこと呼ばれていただ。だからオラには名前が必要無かったんだ」
そういえば俺様も彼女の名前を知らなかったが、まさか名前そのものが無かったとは……。
「困ったもんだねェ。名前が無きゃこの村で暮らすのも不便だろうねェ」
「オラ、今までは名前なんて無くても生活できてただ。でも、名前ってそんなに必要だか?」
「この村で過ごすなら、やはり名前くらいは付けてあげないとかわいそうだよ」
名前か、俺様がこの娘に名前を付けてやろう。
この娘、フワフワした髪型にふさふさの尻尾。
そういえば何かの草花に彼女に似たものがあったかもしれん。
俺様は辺りを見渡した。
見つけた! そうだ、この綿毛のような花だ!
俺様は爪先でその花をつまんだ。
「これはお前にそっくりだ、健気で小さくフワフワな花……そうだ、お前の名前は……フワフワにしよう」
「オラの名前、フワフワ……! えっ!?」
小さかった獣人の少女は俺様が名前を呼ぶと、成長し、美しい姿に成長した。
「オラ、どうなってるんだ!?」
「へェ。どうやら魔力の高い者によるネーミングの効果だねェ。ヘックスが名前を付けた事でフワフワちゃんが大幅にレベルアップしたって事だねェ」
「これが……オラなのか??」
美しい姿に成長したフワフワは俺様を見上げ、ニッコリと微笑んだ。
「ドラゴンさん、オラ……この村でお世話になるだ。だから、安心して魔王退治頑張ってください」
「わかった。フワフワ、良い子で待っているんだぞ」
俺様はフワフワに必ず戻ってくると約束した。
「いいか、この娘に傷をつけたら……その時は分かっているだろうな!?」
「ヘックス、だから脅さないでって」
「むう、すまん……つい」
「勿論ですじゃ。フワフワさんにはこの村の一員としてヘックス様がお戻りになるまでしっかりと預からせていただきますじゃ」
村の連中がそう言ったので、俺様はそれを信用してフワフワを村に預ける事にした。
「フワフワ、俺様が戻ってくるまで良い子で待っているんだぞ」
「はいっ、ドラゴンさん!」
「ヘックスだ。俺様の事はヘックスと呼べ」
「はいっ、ヘックスさん!」
さあ、それでは魔王退治に向かうとしようか。




