752 村に現れた伝説のドラゴン
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「決めた。オラ、ここでドラゴンさんの帰りを待つだ」
「何? お前……俺様ならお前を守ることも出来るのだぞ。一緒に行かないのか?」
「オラ、長い間ダハーカのせいでねてしまって、ドラゴンさんにさみしい思いさせてしまっただ。だから今度はオラがドラゴンさんを待つ番なんだ」
獣人の少女の目は守られるだけの弱い生き物の目では無かった。
それは強い意志で、俺様が魔王を倒して帰ってくるまで待ち続けるという意思の現れだったのだ。
「だがこの山の中は、お前にとって恐ろしい敵がいるかもしれんのだぞ! 俺様が守らなければ、お前は生きていけない……それでもここに残ろうと言うのか?」
「構わないだ。オラ、強くなる。オラの身はオラで守れるくらいになってドラゴンさんの帰りを待つだ」
この娘の意志は固い物だった。
しかしこの山、俺様がいなくなるとどんなヤツが出るかもしれない。
俺様はこの娘をここに置いていくのが不安になった……。
「ダメだ、俺様は許さんぞ。こんな山の中で、小娘一人だけで生きられるわけがない。お前は俺様に付いてこい」
「でも……魔王を倒すのにオラなんていたら、ジャマになるだけだから……」
獣人の少女は悲しそうな顔を見せた。
俺様は彼女に一体どうすれば良いのだ?
この娘を魔王退治に連れて行くのは問題無いが、この三人がどういうか……。
俺様は頭を悩ませていた。
「ヘックス、どうしたんだ?」
「バシラ、俺様はこの娘を連れていきたい、ダメだろうか?」
「ダメ、とは言わないけど……この子戦えないんだろう。ヘックスが守り続けるのか」
「そうよね。それだとヘックスさんもこの子も負担が大きくなるわ」
「ハッキリ言ってしまえば足手まといにしかならないねェ。勢力プラスどころかマイナスにしかならないんじゃねェ」
三人はどうやらこの娘を連れて行くのに反対のようだ。
仕方ない、俺様はこの娘とここに残る事にしよう。
仲間になって戦うという約束を反故にするのは気が引けるが、この娘が死んでしまっては身も蓋も無い。
「その子、預ける事は出来ないかな? バシラの村なら」
「そうだな、少し遠回りだが一度その女の子をボクの村に預けよう」
「そうねェ、こんな場所に一人女の子がいても野たれ死に確定だからねェ」
何か三人の中で話が変わってきているようだ。
「ヘックス、キミが良ければなんだけど……ボクの村にその女の子を一度預けてもいいかな? そうすればこの子も安心してキミの事を待てるだろうからさ」
「本当か! それでお前達が文句ないなら是非とも頼みたい」
「まあ、その代わりと言っては何だけど……一つお願い聞いてもらえるかな?」
「勿論だ、何でも言うがいい!」
バシラが俺様に頼んだのは、俺様の背中に乗せて飛んでくれという話だった。
俺様の翼は先程の戦いで傷ついてしまったが、テラスの治癒魔法ですぐに完治した。
いや、むしろ前よりも傷が全快で清々しいくらいだ。
この翼なら一日もかからず空を飛べばバシラの村に到着するだろう。
俺様は空を切り、天高く飛び続けた。
「ドドドドドド……ドラゴンだあぁぁあぁあッ‼‼」
村人達が集まり俺様を見て驚いている。
まあ数百年前にダハーカの呪いを解く為に飛び回ったのがどうやら伝説として残っていたようだな。
「みんな、驚かなくていい。このヘックスはボクの仲間だ。みんなに危害を加える事はない」
「へ……ヘックスだってぇええええっ‼ それって、世界を敵に回して戦った世界最強の黒竜王の名前じゃないのかあぁあああっっ!???」
「そうだ、俺様が黒竜王ヘックス様だ」
村人達は俺様の名前を聞いてさらに驚いていた。
「バババ……バシラ、おま、おままあえ。よくこんな最強のバケモノを仲間にしたな!」
「まあ、成り行きでね。それで、みんなに頼みがあるんだ」
どうやらバシラは村人を説得してくれているようだ。




