750 永き眠りの末に……。
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「おい、女。本当にこの呪いを解く事ができるのか!?」
「女って何さねェ、失礼な奴だねェ。彼女にはテラスっていう可愛い名前があるんだからねェ」
「お、おう。それは悪かった。テラス、この呪いは本当に解けるのだな?」
「はい、これは黒い闇の力、つまりはそれに相反する属性の魔法を使えば呪いを中和できるわ」
成程、俺様の力は光でも闇でもない力、だからいくらこの獣人の少女を助ける為に力を使おうとしてもその力が無かったのか……。
「では、その黒い闇の力を消せば……この娘は助かるのだな!?」
「はい、わたくしにはその力があります」
このテラスという娘、闇に反する力を持っているのか。
俺様の見ている前でテラスは黒い光の膜を獣人の少女の周りからかき消した。
「な!? 俺様の黒い防護膜を……一瞬で消しただと!?」
「テラスちゃんの力はそんなもんじゃないんだからねェ。もっと驚くと良いねェ」
このエントラという女、何かと癇に障るが……今は我慢しておこう。
この連中に任せれば本当にあの邪神ダハーカの呪いが解けるかもしれない。
俺様の見ている前でテラスは今度は両手いっぱいに広げ、まぶしい光の塊を集めていた。
「や、やめてくれ! そんな光の塊を脆弱な人間にぶつけたら……娘が粉々になってしまう!」
「大丈夫です。これは熱や質量を伴わない光ですから」
この女、もし獣人の少女を傷つけたらその場で消滅させてやるからな!
俺様はテラスの動きを固唾を吞んで見続けていた。
そして、俺様は奇跡を目の当たりにした!
白い光を全身に吸い込んだ獣人の少女から、黒いモヤのようなものが染み出して来たのだ!
「これがダハーカの呪いです! わたくしの力でこのモヤを追い出します」
だが、黒いモヤは今度はテラスに襲いかかろうとした。
「そうはさせないぞっ!」
「バシラっ!」
バシラと呼ばれた男が剣を振るうと、黒いモヤは一瞬でかき消された。
「もうこれで大丈夫だよ」
「あ、ありがとう……」
この戦士の持っている剣、まさか形の無いものを切り裂く力があるのか!
下手すれば俺様のブレスを切り裂く事も出来るのかもしれん。
黒いモヤが消えると、今度はテラスが獣人の少女に何か始めた。
「お、おい……もうダハーカの呪いは消えたのじゃないのか!?」
「彼女は今、相当弱い力で眠っています。このままでは自ら起きる力を取り戻せないまま、永遠の眠りに落ちてしまいます。わたくしが今しているのは、彼女に生命の力を送り込むことなのです」
テラスが獣人の少女に力を送り込んでいる時、二人が声をかけた。
「テラス、ボクの力も使ってくれ。手を重ねれば力を送れるんだよね」
「それならアタシの力もあればもっと早く目を覚ませるんじゃないかねェ」
コイツら、見ず知らずの少女の為にここまで力を貸してくれると言うのか……。
「すまぬ……俺様の力も使ってはくれないか……」
「黒竜王ヘックス……わかりました。それでは指をわたしの方に向けてください」
「こう……か?」
俺様はテラスの前に前脚の指を出した。
すると彼女は俺様の指に触れ、魔力を受け取った。
俺様は指が触れた瞬間、少し力が抜けるのを感じたが、これで本当にあの獣人の少女が目覚めるならいくらでも力を渡そう。
俺様、バシラ、テラス、そしてあのエントラという女。
全員の魔力、エネルギーを獣人の少女に送り込んで少しすると、彼女の寝息が荒くなった!
こんな事、数百年のうちに一度も起きた事が無かった。
そして……ついにその時は来た。
「ん……ん……うぅ。えっ……オラ……」
「お前……目を覚ましたのか!」
「――え?? その……声、ドラゴン……さん?」
「そうだ、俺様だ……黒竜王、ヘックス様だ‼」
なんと、この三人組のおかげで獣人の少女は数百年ぶりにダハーカの呪いから目を覚ましたのだ。




