745 邪神の呪い
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「「「ガアアアァ……邪神である余が……まさかこんな事になる……など」」」
「貴様は俺様を怒らせた……それがそもそもの間違いだ!」
「ドラゴン……さん」
「大丈夫だ、すぐ終わる。そうしたらまたあの木の実を用意してくれ」
黒竜王ヘックスの全力攻撃を受けた邪神ダハーカは、全身の形を保つのがせいいっぱいだった。
この黒竜王ヘックスの放った黒い七色の光の無属性ブレスは、大魔女エントラが全力でバリアフィールドを張り、ユカが飛行艇グランナスカの全速力で免れようとした攻撃と同じモノだった。
その威力は邪神の身体を一発の攻撃で満身創痍にするほどのものだった。
「「「バ、バカな……俺様の身体が……」」」
「――崩れるとでも、いうの……か!?」
「邪神たる……この………余が……」
邪神ダハーカは崩れ落ちる身体の三つの首で話そうとしていたが、身体がどんどん崩れ、竜の身体を保つのも厳しい状況になっていた。
「「駄目だ、このままでは……身体が維持でき……ぬ」」
「余の身体を……分けぬ事……には!」
ダハーカは三つの頭でお互いが話し合い、身体を三つに分ける事にし、完全な消滅を避けることにした。
「「「っむうううううッ! ぬおぉぉぉおおおっ‼」」」
邪神ダハーカが黒い霧に包まれ、三つの姿に分かれた。
一つは三つ首のドラゴンの身体をそのまま使った物、それは……ユカ達や戦士ボンバヘが戦った邪悪な竜、邪神竜ザッハークに。
もう一つは、邪悪な魂のみの思念体、ヒロやバグスに次元を超え邪悪な力や知恵を与えた邪神ダハーカ。
そしてもう一つは小さな塊のように見えた謎の物体、この三つの姿に身体を分離させ、邪神ダハーカは完全な消滅を避けた。
そのうち二つは何処ともなく遠くに飛んで消えた。
残った黒い霧のような邪悪な魂が黒竜王ヘックスの頭に直接思念で話しかけてくる。
「何だ! これは、どうなっている!?」
「黒竜王ヘックス……余は貴様を決して許さぬ。貴様を呪い、大切なモノを奪ってやろう……。それが余を怒らせた報いだ‼」
「俺様の大切なモノだと!? まさか!」
「グワッハッハッハ……! さあ、後悔するがいい……これが余を怒らせた報いだ……」
邪神ダハーカは黒い靄のような物になり、黒竜王ヘックスを襲った。
だが、黒竜王ヘックスはそれを黒い光の壁で跳ね返した。
「フン、こんな攻撃で俺様を呪うだと……ふざけるなッ!」
だが、跳ね返された呪いは、彼の本当に大切なモノを奪った!
「キャアァァアァアッ!」
「何だとっ‼」
呪いの霧は黒い光の膜の途切れた場所から入り込み、獣人の少女を蝕んだ。
そして彼女は邪神ダハーカに呪われてしまった。
「オ……オラ、ねむい。何だか……からだが、動かない……」
「しっかりしろ! お前は俺様が守ってやる‼」
「ドラゴンさん、ありが……と……う」
「しっかりしろぉ! 俺様は、まだお前の名前も……聞けていないのだぞ!」
邪神ダハーカに呪われた獣人の少女は、深い深い眠りに落ちてしまった。
「グワッハッハッハ……さぞ悔しかろう、貴様の大切なモノはもう目覚める事はない、永遠に起きる事無く……眠り続けるのだ‼ その娘は貴様にとって最も大事なモノだったのだろう! だから、奪ってやったわ!」
「貴様ぁぁぁ! 許さんぞ、消え去れ!」
黒竜王ヘックスの怒りのブレスは思念体のダハーカを吹き消した。
「――グワッハッハッハ……怒りの……感情が、負の……思念……がある限り……余は、不滅だ……」
そう言い残すと、邪神ダハーカは姿を消した。
その場に残ったのは起きる事無く、永遠に眠り続ける事になった獣人の少女と、孤独と絶望に打ちひしがれた黒竜王ヘックスだけだった……。
「頼む、目を覚ましてくれ……そうでないと、俺様はもう孤独に耐えきれないんだ……」




