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743 黒竜王VS邪神

◆◆◆


 数千年ぶりに空から見た光景は昔と全く違うものだった。

 だが俺様の攻撃の爪痕が残っている場所も存在したようだ。


 あの山の側面の崖になっているのは、元々俺様がブレスで空けた穴が風化して崩れたものだろう。


 やはり空を飛べるというのは素晴らしい!

 この翼があればどこまでも飛べるし、この目があればあの獣人の少女を探すのも容易に出来るはず。


「何処だ! 何処にいるっ!」


 俺様は咆哮を上げながらあの獣人の少女を探した。

 あの時彼女は生贄になると言っていたので、そんな狭い場所ではあるまい。


 ダハーカとやらが何者かはわからんが、あの少女や獣人達が恐れていることを考えると、どう考えても大きさは俺様と同じかそれ以上と考えられる。

 そうなると山の上等の開けた場所、そこの可能性が高いだろう。


 俺様はその条件に当てはまるような高い山の開けた場所を探した。

 早くしなければ、あの少女がダハーカの生贄にされてしまうっ!


「グォオオオオオオンッ! 何処だ! 何処にいる!?」


 俺様は空を飛び、あの少女を探し続けた。


◆◆◆


「すまない、お前にこのようなことをさせたくは無かった……うぅ……」

「いいんですだ。オラ、とうちゃんかあちゃんが死んだ後、みんなのおかげで生きて来れましただ。だから、オラがいけにえになることで村が助かるなら、よろこんでいけにえになりますだ」

「ねえちゃん、ねえちゃん」

「ほらほら、泣いちゃダメだ。これからの村を作るのはおまえたちだ。ねえちゃんはいなくなるけど、みんな仲良くするだ」


 生贄に選ばれた少女は、綺麗な服装で、化粧を施され、村の者達に神輿で山の上まで運ばれた。


「すまない、これも村のため……ワシはお前を本当の孫のように思っていたんじゃ……」

「じいちゃん、わかってるだ。オラを一番かわいがってくれたのはじいちゃんだ」

「ダハーカ……あの悪魔を怒らせたらこの村が滅びてしまう。本当にすまない……」


 長老らしき老人は涙をこらえ、少女を生贄の祭壇に供えた。


 すすり泣く声が聞こえながら去っていく。

 その場に残ったのは獣人の少女ただ一人だけだった。


 少女は座ったまま、あの寂しい目をした黒いドラゴンを思い出していた。

 あの黒い大きなドラゴンは彼女にとっても大事な存在になっていた。


「もう一度、ドラゴンさんに会いたかっただ……」


 少女の目から涙が流れ、化粧が滲んだ。


 ――そんな空気を切り裂いたのは……巨大な黒い怪物だった!


 首が三つある巨大なドラゴン、それが彼女の前にいきなり姿を現したのだ!



「ひぃっ……」


 死ぬ事、生贄になる事を覚悟していたはずの獣人の少女だったが、そのあまりのおぞましさに恐怖で顔をそむけてしまった。


「「「良いぞ良いぞ、その恐怖と悲しみの混ざった表情、さぞ喰らいがいがあろう。さあ、どこから喰らってやろうか。生きたままバリバリと頭から噛み砕いてやるのもオツなものかもな……」」」

「助けて……誰か……助けて……イヤだ、オラやっぱり死にたくない……」

「「「決めた、足から喰らい、生きたまま苦しみを与えて最後に頭を喰らってやろう!」」」

「イヤだぁぁああああ‼ 誰か助けてぇぇぇぇ!」


 邪神の三つ首竜が獣人の少女に手を出そうとした瞬間、黒い光の膜が彼女を覆った。


「「「「ギャウォオオウ! ッ余の食事を邪魔したのは誰だ!」」」

「黙れ! 俺様の大切なものを奪おうとは……貴様! 許さんぞ!」

「あ……あれは、ドラゴン……さん?」

「俺様の名は黒竜王ヘックス! かつて世界の全てを敵にして戦った者だ!」


 邪神ダハーカと黒竜王ヘックス、世界最強のドラゴンは一人の少女を巡り、対峙した。


「「「余の食事を邪魔するとは、貴様こそ八つ裂きにしてくれるわっ!」」」

「俺様を舐めるな! この三つ首蜥蜴が!」


 この生贄の祭壇で究極のドラゴン同士の戦いが今始まろうとしている!

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