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740 絶対無比の孤独

◆◆◆


 俺様は絶対の存在だと思っていた。

 どこで生まれたのか、昔何をしていたのかは全く覚えていない。

 だが、俺様には力があった。


 全身を覆う黒い頑強な鱗、力強い翼、そして絶大なる魔力と体力。

 俺様は欲しい時に欲しい物を奪い、喰らい、壊したいと思ったモノは何でも壊した。


 そして世界を敵に回したのだ。


 俺様に対し、人間と神々が組んで共に攻撃を仕掛けてきた。

 人間の王、創世神、調整神といった連中が俺様を倒す為にその総力を結集したのだ。


「儂の名は軍王ゴルガ! 機械の軍団の王だ。人々に仇為す黒竜王よ! 儂の機械鎧の力を見るがいいっ!」


 人間の王は巨大な腕のついた鎧で俺様の鱗を削ってきた。

 この時俺様は初めて痛みという感覚を知った。

 それほどまでに人間の王の機械鎧は強かったというべきか。


 その他にも調整神とやらは俺様の能力を低下させたりして攻撃してきた。

 能力が低下した俺様は、人間達の攻撃にすら痛みを感じる程に弱体化してしまったのだ。


 そして、俺様にとどめを刺したのは創世神だった。

 あの女は、俺様の周りに巨大な魔法陣を作り、この巨体を閉じ込めた!


「この魔法陣は全ての魔力を吸収し、世界の力とします。つまり黒竜王、貴方がいくら最強の魔力を発揮しようとしても、この魔法陣に吸い取られた力は別の場所で放出され世界のエネルギーとなるだけです、もう諦めて大人しくしてください。そうすれば、貴方をこの世界から消滅させずに済みます」


 力を奪われ、全てを失った俺様は……この時初めて敗北を知った。

 そして、封印から逃れられない俺様は、諦めて永い眠りについたのだ。


 そんな俺様を起こしたのは、魔法陣に迷い込んだちっぽけな少女だった。


「……」

「キャアッ、アナタ、だれなの?」

「――ン、誰だ……? 死にたくなければここから立ち去れ」


 少女は獣人だった。

 獣人など、この悠久を生き続ける黒竜王にとっては小さな羽虫と変わらぬものだった。


「どうして?」

「俺様はここで寝ていた。それも長い長い間だ。それをお前が起こした」

「それはごめんなさいだ」


 少女はそう言うとどこかに走って消えた。

 逃げたか、小さいモノは憐れだな、俺様はそう思っていた。


 だが少女は戻ってきた、手に一杯の果物を持ってだ。


「起きたならお腹空いてるでしょ。ほら、これ食べるだ」


 なんと少女はこの俺様の巨体には少なすぎるであろう果物を食べろと持ってきたのだ。


「貴様! 俺様を馬鹿にしているのか!」


 俺様は咆哮を上げた。

 だが魔法陣に魔力を吸い取られた俺様は、その場の少女をびっくりさせる程度の叫び声しか上げる事ができなかった。


 少女はきょとんとしていた。

 その後ニッコリと笑った彼女は、俺様に果物を差し出してきたのだ。


 こんなモノ食べた気にもならん、そう思っていたのだが……。


「美味い!? 何故だ、こんな小さな果物が……?」

「それはね、ドラゴンさん。誰かと一緒に食べるからだ。一人だけで食べても美味しくないから」


 それは俺様にとって初めての体験だった。

 俺様は生まれてから今まで、仲間や家族などといった者を持たない天涯孤独の絶対の存在だった。

 居たのは敵と俺様を恐れる弱き者だけだった。


 だがこの少女は俺様を恐れる事も無く、笑いかける。

 俺様にとってこんな存在は初めてだった。


「小娘、俺様はその果物が気に入った、食事とは一日何回するものなのだ?」

「んーと、三回だ」

「そうか、それでは小娘よ、これから毎日俺様にその果物を三回持ってこい……」


 俺様はこの少女と話したいと思った。

 そう、こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。


 名も知らぬ獣人の少女。

 ちっぽけな存在に俺様が心を奪われたのは、彼女の優しい笑顔だった。

 俺様は今までに感じたことの無いような、胸の奥の温かさをその時感じたのだ。

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