738 鳴動する黒竜王
「くッ! まさかこれほどだとはねェ! これで目を覚ましたばかりだとは信じられないねェ!」
大魔女エントラ様はこの攻撃が何で何処から放たれているのかを知っているようだ。
「グランナスカッ! 全力全開っ!」
ボクはペダルを全力で踏み、最大出力で飛行艇グランナスカを黒い光の届かない場所まで進めようとした。
あの七色の黒い光は、ボク達があれだけ苦戦した空帝戦艦アルビオンをいとも容易く消滅させた。
つまり、あの攻撃を放ったモノはあの巨大な空帝戦艦アルビオンの耐久力を大幅に上回る最強最悪のバケモノだということだ。
下手すれば破壊神バロール以上かもしれない。
「あのバカ、ユカの放った一撃で起こされた事をよほど怒っているようだねェ」
大魔女エントラ様があのバカという相手、それは今までの会話の中から出てきたもので考えると……まさか!
『竜王ヘックス‼』
やはりそれしか考えられない。
――竜王ヘックスと言えば、伝説に伝わる勇者・バシラ・カーサ、つまりボクの祖先、そして魔法王・テラス、ボクの母さんの先祖であり、その妹であるゴーティ伯爵の奥さんであるホーム、ルームのお母さんの先祖、それと大魔女エントラ様、それらのパーティーと共に魔王を倒したという伝説のブラックドラゴンの名前だ。――
よく大魔女エントラ様がヘックスのバカと言っているが、その伝説の竜王が目を覚ましたとすると、空帝戦艦アルビオンが一撃で消滅したのも納得するしかない。
あの大魔女エントラ様が焦ってこの空域をすぐに離れろと言いながら自身はバリアフィールドを全力で張っている。
しかもそのバリアフィールドは絶大な魔力を持つアンさんとルームさんにも手伝ってもらってようやく維持しているくらいだ。
「あのバカ! 起きがけにいきなり何で黒い光のブレスなんて吐くかねェ! 寝覚めが悪いにも程があるってもんだねェッ!」
それでもあの大魔女エントラ様が脂汗を流すくらい、バリアフィールドを保つのは至難の技らしい。
それほどまでに伝説の黒竜王ヘックスの黒い光のブレスは強烈だということだ。
「ユカ! このままじゃ持たないッ! 思いっきり高度を高くするか反対に思いっきり高度を低くするかは出来そうかねェ!?」
「わかりました、それなら高度を一番低くしてみます!」
ボクは飛行艇グランナスカの飛行高度を墜落ギリギリまで下げた。
そしてマップチェンジスキルでボクは賭けに出ることにした。
「この辺り一帯の地面を全て大きな湖にチェンジ!
ボクのスキルは硬い地面を端の見えない程巨大な湖に変化した。
そしてグランナスカはその湖に着水、そして潜水した。
バリアフィールドの魔法のおかげと、古代技術で作られた船は浸水を一切許さず、ボク達は深い湖の底で黒竜王ヘックスの黒い光のブレスが消えるのを待った。
ボク達の上空の黒い光のブレスが消滅するまでにはその後しばらくの時間がかかった。
ようやく最後の黒い一条の光が消滅したのは、かなり経ってからの事だった。
「ユカ、ありがとうねェ。どうにかあのバカのブレスを避けることが出来たみたいだねェ」
「エントラ様、あの黒い光は一体……」
「アレは人間達に黒竜王ヘックスと呼ばれているブラックドラゴンの吐いた黒い光のブレスだねェ。あの破壊力はバロールの破壊光線やウルティマ・ザインの砲撃に匹敵するほどの力があるからねェ。このグランナスカでも直撃を受ければ間違いなく黒い光の中で消滅していたねェ……」
バロールや伝説のウルティマ・ザインにすら匹敵する破壊力!
そりゃああの大魔女エントラ様が焦るわけだ。
「まああのバカは寝起きが悪いからねェ。一度起きたとしてもまたしばらくは寝るだろうねェ。下手に誰かが起こさない限りはねェ……」
ボクはワザとではないとはいえ、パレス大将軍との戦いの中、そんな恐ろしいドラゴンを起こしてしまったのか!




