737 地の底から響く咆哮
広大な世界を揺るがすその凄まじい雄たけびを耳にした人は数多い。
しかしそれは何者なのか。 鬼神か? 獣か? あるいは暗黒の巨大な魔物か!?
この世界に古くから伝わる言葉だ。
大地を揺るがす振動は、その怪物が目覚めた為だと昔からよく言われている。
その凄まじい咆哮は、地面から遠く離れている空帝戦艦アルビオンを揺るがし、壁にはヒビが入り、マストはへし折れ、満身創痍のアルビオンはその巨体の全体から悲鳴を上げているようだった。
生き残った公爵派貴族達は、その凄まじい振動に立っていることも出来ず、腰を抜かして全員が這いつくばっている。
そんな中、絶命したはずのパレス大将軍は微動だにせず、その場に立ち続けていた。
これは彼の意志の強さによるものなのだろう。
『私の知る話だが、大昔の戦う男の像が建てられた場所があり、その場所を未曽有の大地震が襲った。だがその土地出身の男の像は微動だにせずにその場に立ち続けたって話を聞いたことがある』
なんとパレス大将軍は、死してなお自らの意思でその場に立ち続けていたのだ。
ターナさんはパレス大将軍に手渡された布に包まれた物を持ち上げた。
ズシリと重いそれは、少し中身を見た彼女を驚かすようなものだったらしい。
「――これは! パレスさん……ありがとう……ありがとう……」
ターナさんはいくつかの布に包まれた物を大事そうに抱え、飛行艇グランナスカに乗り込んだ。
「ターナさん、待っていましたよ。さあ、乗ってください」
「ああ……そうさせてもらうよ」
ターナさんが船に乗り込んだ直後、再び凄まじい咆哮が聞こえてきた!
「グゴォオオオオオンンンッッ!」
「まさか! この雄たけびはッ! ユカ、早く戻ってくるんだよ。とてつもないことになるからねェ!」
「エントラ様、一体何が?」
「喋っているヒマは無いからねェ! みんな、さっさと船に乗るんだねェッ!」
普段冷静なはずの大魔女エントラ様が焦っている。
これは何かトンデモないことが起きるのだろうか。
ボクは飛行艇グランナスカに飛び乗り、操縦席に座った。
飛行艇のある甲板には這いつくばるような姿で船に乗せろと蠢く公爵派貴族が押し寄せていた。
しかしボクはそれらを振り切り、甲板からグランナスカを発進させた。
「ユカ! ここから一気に全速力で離れるんだねェ! そうじゃないと、全員消滅するからねェッ!」
大魔女エントラ様が相当焦っている。
これはあの凄まじい咆哮と何か関係あるのだろうか。
「まさか、あのユカの一撃であのバカが目を覚ますなんてねェ……ルームちゃん、イオリ、全員の持てる全力で後方にバリアフィールドを展開してもらえないかねェ。時間が無いからねェ!」
「お師匠様。わかりましたわ!」
「何やらのっぴきならぬ状況のようじゃのう。わかったわい」
大魔女エントラ様は過剰と言えるくらいのバリアフィールドをグランナスカの後方に展開した。
ボクは彼女に言われたように、全速力で空帝戦艦アルビオンから離れ、一気に元いた南南東の方角に向かいグランナスカを飛ばした。
「来るよ! 全員、バリアフィールドを全開、もし破れたら全員消滅だからねェ!」
大魔女エントラ様がそう言った直後、地平線の遥か彼方の北北東の方角から、七色の黒い光の帯が山々を貫き押し寄せた!
「来たッ! ユカ、全力で船を飛ばすんだよ。間に合わなかったら全員死亡だからねェ!」
「わかりました! 全力全開っ!」
黒い七色の巨大な光の帯は、太陽砲ソルブラスターすらをも上回る巨大さであっという間に空帝戦艦アルビオンを包み込んだ!
すると、黒い光の帯の中でボク達をあれだけ苦しめた古代兵器の空帝戦艦アルビオンは、跡形もなく消滅してしまった。
「そんな! あのアルビオンが!」
「くッ! こちらもバリアフィールドにかなりの負荷があるねェ! 早くこの空域を離れないと!」
ボク達はあの黒い七色の光を逃れないと、消滅してしまう危機に襲われた!




