736 パレス大将軍の最後
パレス大将軍とボクの勝負はボクの勝利に終わった。
そのパレス大将軍は今、ターナさんが抱え込む形で庇っている。
「ユカ、もう勝負はついたんだろ。パレスさんをこれ以上傷つけないで……」
ボクはバロールの眼でパレス大将軍を覗いた。
65535/461
このHPからするともう瀕死寸前といったところだ。
しかも今もそのHPは減り続けている。
「もういい……お前はこの船を降りていい」
「嫌だよ! この子は父さんの子供……アタシの兄弟みたいなもんなんだ」
「ユカ、頼む……ターナをこの船から降ろしてくれ」
ボクはすぐに返答できなかった。
「ダメだよ。アタシはもうユカ達と同じ場所に戻る資格は無いんだ……」
「そんな事ありませんっ!」
ボクは思わず叫んでしまった。
「ターナさん、貴女は村を焼き払ってしまった事を後悔しているのでしょう」
「そうだよ、あの光で一体どれだけの人が……」
「ターナさん、あの村では誰一人死んでいませんっ!」
それを聞いたパレス大将軍がほっとした表情を見せた。
「――そうか、ゴーティにあの伝書鳩は無事……届いたんだな……」
「パレス大将軍! それは一体!?」
「フッ、もう真っ赤に手を血塗られた我の偽善に過ぎん。そうか、無事村人は全員避難できたのだな……ターナ、お前は誰も殺していない。さあ、これを持ってユカ達と行け」
パレス大将軍はそう言うと、何かの布に包んだモノをターナさんに渡し、その場に膝をついてしまった。
「グハッ!」
「パレスさん!」
「さあ、行け。お前はまだ戻ることが出来る。これを持って……船を降りろ」
「そんな……」
それを聞いていた公爵派の貴族達が騒ぎ出した。
「ふざけるな! ワシも船から降ろせ」
「お前一人だけ逃げるつもりか、一緒の食事をして気持ちを通わせたのは嘘なのか!」
「儂も船から降ろせーこの下民がー! うぐぉっッ‼」
騒ぐ貴族が黙ったのは、数名が一気にパレス大将軍に剣で斬られたからだ。
「お前達は我と共に沈むのだ。それが嫌なら我が今この場で葬ってやろう……」
死を覚悟したパレス大将軍の気迫の前に、公爵派貴族の生き残りは誰もが委縮し、誰一人声を出せなくなっていた。
「ユカ、最後にお前と……戦えて良かった。我は武人として死ねる」
「パレス大将軍ッ!」
パレス大将軍は震える手でボクに剣を手渡してきた。
「さあ、持って行くがいい。これが我の誇り、天宮の衝撃だ。お前にコレを受け取って欲しい……」
「パレス大将軍」
ボクは両手で天宮の衝撃を受け取った。
世界最強の剣はズシリと重かった。
「ゴテンは……我が妻は無事だったのか」
「ハイ、奥様とお子様はゴーティ伯爵の元で無事保護されています」
「そうか、それは良かった。もう思い残すことは……無い」
「パレス大将軍ーッ! あなたのお子様達には父親は誇り高く戦ったとお伝えします!」
「そうか……ユカ、感謝する……」
彼の子供達には父親は魔族の大軍と誇り高く戦ったと伝えよう。
それがもし嘘だとしても、子供達の生きる力になるならその方がいい。
ボクはターナさんの手を取り、飛行艇グランナスカへ歩き出した。
ターナさんも今の状況を受け入れ、ボク達と共に行くことを決めた。
「パレスさん……」
「ターナ、お前は光の道を……歩いて……い……け」
パレス大将軍は満足そうに笑い、ターナさんを優しく見つめた。
そして世界最強の男、パレス大将軍は艦内に立ったまま、その生涯を終えた。
「パレス大将軍……」
ボク達が灌漑深くパレス大将軍の死の冥福を祈ろうとした時、地の底から震えるような凄まじい咆哮が聞こえた!
「ググォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオグゴゴォォォオンンンッ!」
何なんだ!? この地の底から響くような凄まじい雄たけびは!
これは一体どこから聞こえてきているんだ!




