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733 働いて食うメシは美味いか?

◆◆◆


 ユカ達が飛行艇グランナスカで逆噴射をして脱出した後、空帝戦艦アルビオンは大混乱の最中にいた。


「急げ! 急いで火を消せ」

「ダメです、こちらは駆動機関が止まっていて全く動きそうにありません!」

「どうにかしろ、このままでは墜落するぞ!」


 ユカ達の空帝戦艦アルビオンに与えた影響はかなり大きく、飛行機関の大半が大破してまともな飛行が出来なくなっていた。

 そんな中、パレス大将軍の部下は右に左に動き回って大破した空帝戦艦アルビオンのダメージコントロール、修復作業に取り掛かっていた。


 そんな中でターナは考えごとをしていた。


『もしここでアタシがこの船を自爆させれば、ここにいる貴族や兵士達が全員死ぬ。あれだけの爆発で罪も無い村人を大量に虐殺したアタシの罪滅ぼしには軽いもしれないけど、仕方ないよね……』


 ターナは自らの胸を強く打ち、アルビオンを自爆させようとした。

 しかし、それは不発に終わってしまった。


『――何故なの!?――』


 幸か不幸か、ターナの取り付けた自爆装置はユカ達によるグランナスカの突撃によって、その起動装置が故障してしまい、ターナの身体との連携が取れなくなってしまっていた。


「そう、そうなのね。まだアタシが死ぬには早すぎるのか……」


 ターナは着ていたドレスの裾を破り、足元を動きやすくした。

 そしてアルビオンの船体を撫で、一人呟いた。


「そうよね、アンタもまだ消えたくないよね……わかった、アタシが助けてあげるよ」


 ターナは自分の部屋に戻り、工具一式を用意して大穴の開いた一画に戻ってきた。

 そこでは公爵派貴族による罵声がいつまでも止まなかった。


「どうなっているんだ! 何故ワシらがこのような目に逢うのだ!」

「パレス! どうなっておる。貴様、儂らを怒らせればどうなるかわかっておるのか」

「…………」


 パレス大将軍は剣の柄を手で握ったまま、公爵派貴族の罵声を耐えていた。


「おっと、いいのかな? 我々を怒らせれば、貴様の家族の保証はせんぞ……」

「くっ……」


 パレス大将軍は家族のことを言われ、耐えるしかなかった。

 その沈黙を破ったのはターナの一撃だった。


 バギィッ!


「ぐへぇっ!」

「アンタ、カッコ悪いね。全然男らしくないよ」

「この糞アマァ! よくもよくもこの貴族であるワタシに手を上げたな! 許さん、貴様の一族郎党全て皆殺しにしてやる!」

「フンッ、アタシは家族なんていない天涯孤独の身よ。怖いものなんて何も無いわ」

「え!?」

「だからアタシがアンタ達の性根叩き直してあげるよっ!」


 ドガッ! バギッ! ボスッ‼


 ターナはその場にいた公爵派貴族の生き残りを尽く殴り飛ばした。

 彼女のあまりの気迫に、兵士達ですら誰も止められなかった。

 いや。兵士達は本音、ターナが自分達の代わりに公爵派貴族をボコボコにノシていたことを心では喜んでいたくらいだ。


「いいこと! この後生き残りたければアタシの言うことを聞きなっ!」

「ハ……ハイ。わがりまぢた」


 顔をボコボコに腫れ上がらせた貴族達はターナの言うがままに空帝戦艦アルビオンの修復作業を手伝わされた。


「パレス……貴様の部下のせいで……許さんぞ」

「何? 文句あるならアタシに直接言いなよ。何で関係ないパレスさんに八つ当たりしてるのよ」


 ターナの前にひ弱な貴族は誰一人勝てるものがいなかった。

 そしてターナはこの船の責任者として現場を指揮し、空帝戦艦アルビオンが墜落しないように修復作業を進め、どうにか最低限の航行が可能な状態まで戻した。


「アンタ達、食事だよ」

「何だこれは! こんな家畜のエサ同然の物を我々に食えというのか!」

「文句あるなら食べなくてもいいんだよ」


 ヘトヘトに疲れ果てた公爵派貴族達は仕方なく用意された食事を口にした。


「美味い! 何故だ。こんなに粗末な物が……」

「アンタ達、今までに本当に働いてメシを食べた事無かったんだろ。これが働いて食うメシの美味さだよ」


 貴族達は何故か泣きながら食事をする者が絶えなかった。

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