732 北北西に進路を取れ!
ゴーティ伯爵が深々と頭を下げた事に対し、村長は少しうろたえた様子だった。
「そ、そんな。儂らは伯爵様のおかげで誰一人死なずに済んだのですじゃ。感謝こそすれど、謝罪しろという筋合いはとてもありませんわい」
「ですが貴方方は突如住み慣れた村を離れろと言われて従わざるを得ませんでした。私にもっと力があればあのような横暴な帝国の愚行を止めることが出来たのです……私の力不足故に皆様にご迷惑をお掛けしてしまったのは変わりありません」
平民相手にここまで深々と頭を下げられる貴族はそういるものではない。
ゴーティ伯爵は本当に自分の領地の住民を大切にしているのだと感じた。
だからこそ、北東の村の住民は伯爵の立ち退き命令に素直に従ったのだろう。
「さあ皆さん、私の領地には土地も村もあります。家族で住みたい人は一緒に住むことも出来ますし、もし家を建てたいのでしたら私が費用を出しましょう」
ゴーティ伯爵は空帝戦艦アルビオンから救出された人達と、ここにいる北東の村の住民達のどちらにも同じように接している。
彼にとっては本当にこの領地にいる住民は等しく統治する対象だといえるのだろう。
だからこそ住民達も伯爵に従おうとするのだ。
避難民と北東の村の住民、住んでいた場所が違う者同士で本来なら相容れない可能性もあったが、彼等はお互いが手を取り合って新しい村を作ると誓い合っていた。
この人達ならば安心だ。
もし土地が必要ならそれこそ父さんが村長になった村に来てもらえばいくらでも住む場所は確保できる。
それにもし必要ならばボクがマップチェンジスキルで肥沃な土地を作って畑を作りやすくするのも水路を引くのも出来る。
「ここはゴーティ伯爵様に任せれば良さそうだね。ボク達はボク達の出来る事をしよう」
「そうですわ。あのにっくき空帝戦艦アルビオン。アレを倒さないと」
「ルーム、その前にターナさんを助け出さないと、彼女は何も悪いことしてなかったんだから」
「そうねェ。あの船の中で唯一悪事に手を染めていないとしたら彼女だけだろうねェ」
その話を聞いていたパレス大将軍の奥さん、ゴテンさんが悲しげな顔を見せた。
「そうですわね……。わたくし達が人質にされていたとはいえ、あの人に望まぬ悪行を積ませてしまったのは間違いありません……」
「母さま、父さまは今もま族と戦ってるんだよね! ぼくたち、強くなって父さまのようなりっぱな軍人になるんだ」
「そうね……あなた達は立派な人になるんですよ……」
ボク達は言葉を失った。
ここで事実を子供達に叩きつけるのはとても残酷だ。
それならばここは話を合わせておこう。
「そうだよ。お兄ちゃんたちはね、その魔族と戦うキミ達のお父さんを助けるためにあの空飛ぶ大きな鳥で戦ってくるんだ」
ボクがそう言うとパレス大将軍の息子と娘は眼をキラキラと輝かせてボクの手を握ってきた。
「がんばって! お兄ちゃんたち。ま族なんかに負けないで!」
「ウン、わかった。絶対お父さんを助けるからね!」
人質無き今なら、公爵派貴族さえ倒せばパレス大将軍を説得できるかもしれない。
ボク達は大勢の人達に見送られながら食料や荷物を数日分積んで飛行艇グランナスカに乗り込み、空高く飛び立った。
グランナスカの操縦席にはこの辺りの地図を水晶に映す機能があり、空帝戦艦アルビオンがどこにあるのかをすぐに見つけ出すことが出来た。
目標はここから北北西、どうやら空帝戦艦アルビオンはかなりの低速で空を飛んでいるようだ。
「みんな、行くぞ! 目指すは北北西。目標、空帝戦艦アルビオンッ!」
ボクは操縦桿を握り、ペダルを踏んで飛行艇グランナスカを北北西目指して飛ばした。




