731 突如の退去命令
「儂が村長です。あなた方は?」
「僕はゴーティ伯爵の息子、ホーム・レジデンスです」
「私はルーム・レジデンスですわ」
「おお、あなた方がゴーティ伯爵様の……」
ここはボクが出しゃばるよりも領主の子供であるホームさん達に話してもらった方が話は進みやすいだろう。
「失礼ですが村長様はあの北東の村の村長様で間違いありませんか?」
「そうですじゃ。儂らは一週間前急遽ゴーティ伯爵様の命令であの村を立ち退くことになったのですじゃ」
「一週間前に急遽って……それって、あまりにも横暴とは思わなかったのですか?」
「いいや、儂らはゴーティ伯爵様には以前からとても良くしていただいておりましたので、これは何かあるのではと村民全員が一致であの場所を離れたのですじゃ」
村長さんはそのまま話を続けた。
「あの村には数百年これといった天災は無かったのでそういう事では無いとは思いましたが、あの伯爵様がすぐにでも村を離れないと命の保証はしないとまでおっしゃっておられましたのでな」
「でもそれに疑問を持つ人達はいなかったのですか?」
「勿論反対する者もおった。じゃが家畜達が騒ぎ出したのを見て皆がこれは何かあると感じ、全員で最低限の荷物だけを持って村を離れたのじゃ。伝書鳩には村を離れた後の生活の保障は伯爵様自らがしてくれるとまで書いておられたのでなぁ」
どうやらゴーティ伯爵は空帝戦艦アルビオンの飛行ルートにあの村があることに気が付き、何らかの方法で情報を手に入れたのだろう。
その上で村人を全員避難させたのが一週間前くらいだったというわけだ。
「しかしその後四日ほどしてからじゃ、儂らは今までに見たことも無いような恐ろしい物を見てしまったのじゃ。それは空を飛ぶ船じゃった。空を飛ぶ大きな船は儂らの住んでおった村の方に飛んでいき、そしてその後地面に落ちた太陽が光り輝いた……もし儂らがあの村に残っておったら誰一人として助からなかったじゃろうて……」
これで全部の話がつながった。
空帝戦艦アルビオンが太陽砲ソルブラスターで地上に墜落したのが10日ほど前、その後ターナさんが攫われたのが一週間前で、彼女が魔技師としてアルビオンを修理したのが四日ほど前、そして四日前の時に飛行して無人の村を焼き払い、その後公爵派貴族を乗せるために王都に向かったと思われる。
そしてボク達が破壊神バロールを倒すためにアルカディアを離れたのが10日前でその後数日かかってエルドラドに到着、そこで数日かけて破壊神バロールを倒して飛行艇グランナスカを手に入れ、そこから一気に地上にワープしたので公爵派貴族による見せしめ処刑のタイミングに間に合い、グランナスカの機体を空帝戦艦アルビオンに突撃させたというわけだ。
どうやらこの10日間でかなりの事が起こっていたらしい。
そして今に至り、犠牲者を出さずにこれまでの事が出来たのはボク達が空帝戦艦アルビオンに匹敵する飛行艇グランナスカを手に入れたからだと言える。
「村長さん、もしよろしければもう少しで伯爵様の城なのでボク達がお送りしましょうか?」
「え? 本当に良いのですか?」
村長さん達はボク達が飛行艇グランナスカで送ると言ったら流石にビックリしていた。
だがその後ボク達が実際に格納庫に家畜達を一気に載せるとその便利さにうなずき、全員がボク達のグランナスカで伯爵様の城に輸送されることになった。
「凄いものですじゃ、あれだけの村人が夜になる前に全員城に到着するとは」
「皆さんを危険なまま移動させるわけにはいきませんでしたから」
ボク達は村人が全員ゴーティ伯爵の城に到着するまでグランナスカで飛ぶ側と残った村人を護衛する側の二手に分かれた。
その判断が正しかったのだろう、村人には誰一人犠牲者や盗難被害を一切出ずに済んだ。
ボク達が村人全員をゴーティ伯爵の城に送り届けると伯爵自らが村人を迎え入れてくれた。
「皆様、突然の退去命令、誠に申し訳ありませんでした。この責任は私が取ります」
ゴーティ伯爵は村人達全員の前で深く頭を下げ、今回の件について謝罪した。




