730 消えた村人達はどこに?
ボク達は飛行艇グランナスカで爆撃の中心地と思われる大きな凹みに着陸した。
外に出ると、辺りには何一つ残っておらず、ここが村だったというのもある意味信じられないくらいだ。
だが、遠くに吹き飛ばされたと思われる家の瓦礫や、かろうじて残る道の跡がここがかつて人の住む村だったということを証明している。
もしここに人がいたとしても、あの爆撃の穴の大きさから考えると誰一人として助からないだろう。
これが空帝戦艦アルビオンによる攻撃だというのは想像がつく。
いくら魔将軍アビスといえど、あるいは魔将軍ゲートだとしてもこれほどの大規模な魔法を使えるとはとても思えない。
それにあの二人は南方の激戦で力を使い果たし、これくらいの魔法が使えるほどの魔力が残ってはいなかった。
それにもしそれだけの濃い魔法濃度だとするなら、大魔女エントラ様やアンさんが何かの反応を示してもおかしくはない。
「エントラ様、これは大規模魔法だと思いますか?」
「いや、これはどうも違うみたいだねェ。ここからは魔法の残滓を感じられない。もっと違った何かの力がここで爆発したみたいなものかねェ。もしここに人や動物がいたとしても絶対に助かるわけがないねェ」
なるほど、これで何となくターナさんの態度の意味が見えてきた。
ターナさんは冒険者ギルドの村で攫われた後、魔技師として空帝戦艦アルビオンを修理させられ、その修理が終わった後にその空帝戦艦アルビオンがこの村を焼き払った。
そのことで大量虐殺に加担してしまったと感じた彼女はその罪の重さに耐えきれなくなってしまい、ボク達と一緒に行けないと言ったのか……。
直接ではなかったとしても、船を修理したことが大量の罪も無い村人を虐殺したことに加担したとなると、彼女の性格では絶対に自身が許せなくなる。
だから彼女はあの船と一緒に沈むことが自身の罪滅ぼしだと考えたのかもしれない。
とにかく今はこの誰もいなくなった村に眠る魂をエリアさんに浄化してもらおう。
「エリアさん、お願いです。この村で犠牲になった人達の魂を助けてあげてください」
「ユカ……それは、意味が無いわ」
「え?」
エリアさんがいきなり断るなんて、今までには考えられないことだ。
「どうしてですか! 今までエリアさんは数多くの救われない魂を助けてあげてたじゃないですか。それがどうしてこの村では……」
「ユカ、ここでは誰も爆撃で死んでいません……ここに魂がいるとすれば、天寿を全うしたかまたは病気や事故で亡くなった村人の魂だけです。彼等が言うには、この村が滅びたのは悲しいことだが、村人は全員ここが焼き払われる前に離れたそうなのです」
え? ということは、この村は村人が離れて無人の状態だった時に焼き払われただけということになるのか?
それならターナさんは誰一人として殺していないわけじゃないのか。
それを伝えれば彼女を助け出せるかもしれない。
「つまり、ここの村は空帝戦艦アルビオンが空襲してくる前に村人が何らかの理由で避難したから誰も死なずに済んだって事だねェ」
「それなら助かった村人達がどこかにいるはず、その人達を探しましょう!」
ボク達は飛行艇グランナスカに乗り込み、空爆された村を離れて上空から移動する村人達の集団を探すことにした。
あれだけの大きさの村なら移動する村人達もかなりの数になるはずなので、上空からでも簡単に見つけられるだろう。
ボク達が少し南西に向かうと、ゴーティ伯爵の城の近くまであと少しといったところに大量の馬車と人が移動しているのが見えた。
どうやらこの人達があの空爆された村の住人だったみたいだ。
ボク達は移動する村人が休息している近くの広い場所に飛行艇グランナスカを着陸させ、彼等の元に駆け寄った。
そしてボクは村長らしき人物から空爆される前に村を離れた経緯を聞くことが出来た。




