727 パレス大将軍の妻
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「アンタは……」
「わたくしは『ゴテン・ブーフフィール・ヴァイスシュタイン』と申します。『パレス・ブーフフィール・ヴァイスシュタイン』の妻です」
こりゃあまあトンでもない大物が出てきたもんだー。
パレスといえばオレでも知っているこの国最強の大将軍の名前だ。
その奥さんが捕らえられたとなるとこの島の異常なまでの警備体制も納得ではある。
なるほど、公爵派貴族とやらはパレス大将軍の奥さんをここに軟禁していたというわけか。
「失礼ですが、小生が見たところ、貴女様はこの国の者ではなくミクニの者のようですが、間違いありませんか」
「はい、わたくしはミクニの巫女の家系の者でした。この国に来たのは戦乱の中でその戦を終わらせる者がこの国にいるとのお告げを聞いたためです。ですが船が何者かに襲われてしまい、そこを助けていただいたのが今の夫のパレス様だったのです」
「そうでしたか、やはり貴女はミクニの巫女の家系の者でしたか」
そう言うとリョウクウはパレス大将軍の奥さんに深く頭を下げた。
「申し遅れました。小生はミクニが国王、『ミクニ・ホンド』が娘、『ミクニ・リョウクウ』と申します」
「ミクニ……貴女は国王様の、これは大変失礼を致しました!」
「いえいえ奥方様、どうか頭をお上げ下さい」
それを聞いていたサークル伯爵がいきなりわめき出した。
「バカな! ミクニは戦乱の中でマデンが実権を握ったのではなかったのか!? 公爵様のお力添えであの国は我々の想いのままになったはずだ! それが何故、ミクニの王の子供が生きているというのだ!」
「愚か者が、貴様等の目論見はユカ殿とここにいるカイリ殿達によって全て潰されたのだ、貴様は魔将軍マデンに与する魔族の者か! もしそうだというなら決して許さぬぞ!」
リョウカイが刀をサークル伯爵に突きつけた。
「わわわわ……ワタクシは下賤な魔族とは違う! それよりも、魔将軍マデンとは??」
どうやらこの公爵派のサークル伯爵という男、それほど情報に詳しくはなさそうだ。
「知りたきゃ教えてやるよー。オレ達が倒したミクニの貴族マデンの正体が魔将軍マデンってわけだぜー」
それを聞いたサークル伯爵の顔面が蒼白になった。
「魔将軍……あの伝説の悪魔を、倒しただって……! しかもマデン殿が魔将軍……」
あまりの情報の多さにサークル伯爵はもう抜け殻のような状態だ。
コイツからこれ以上何か聞き出す情報もなさそうだ。
「あの、わたくしにはお話が見えないのですが……王都は無事なのですか?」
「おうよ、王都は別に何の変わった事も無いぜー」
「わたくし、王都が魔族と人間の大戦が起きると聞き、主人の部下だという方にこの島に避難するように言われて連れて来られたのです」
なるほど、そう言って騙してパレス大将軍を公爵派に逆らえないようにするための人質があの子供やここにいる奥さんだったというわけかー。
「ゴテンさん、ここは危険だ。ここは巨竜や大海獣がうようよいるような場所、それをどうにか魔法で誤魔化して安全に見せていただけの場所なんだ。こんな場所に居ても何も変わらないぜー」
「そう……だったのですか、わたくしは騙されていたのですね……」
「おうよ、こんな場所に長居は無用だぜー」
オレはパレス大将軍の奥さんを連れ、この島を離れることにした。
「リョウクウ、飛龍の数は足りそうかよー?」
「大丈夫、奥方様とお子を乗せるくらいは余裕があります」
「よし、それじゃあここを脱出だぜー!」
オレ達はリョウクウの飛龍武士団の飛龍に乗せてもらい、屋敷の上空から飛び立った。
「さて、あの連中にはキツイオシオキをしてやらないとなー。マイル、あの魔法陣は消せるかー?」
「あれくらいならミントで十分かなぁ」
「おうよ、頼んだぜー」
オレの頼みでマイルは植物使いのスキルを使い、大量のミントで血の魔法陣を埋め尽くして無効化してくれた。




