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726 井の中の蛙大海を知らず

◆◆◆


「公爵様に逆らうお尋ね者のキサマを殺せば、ワタクシは今よりもよほど良い立場になれるのです。さあ、ワタクシの為に踏み台として死にさぁーい!」


 貴族の男は魔力を集め、魔法陣から悪魔を呼び寄せた。


「さあ、魔界の住人になぶり殺しにされなさい。コイツらにはミスリルですら傷をつけられないのですよ、一方的になぶり殺しにされる恐怖を味わいながら死になさい!」


 はー、無知ってのは何とも言えないなー。

 コイツはオレ達が数万の魔族相手に戦ってきた事すら知らないのだろう。

 ましてや魔将軍を倒したなんて聞いたら卒倒するんじゃないのかね。


「へー、それがテメーの自慢の魔法だってんだな」

「その通りです。ワタクシこそが最高の魔法使い、強固な防御呪文と絶対の破壊者である魔族を使役するワタクシはこの国で最も優れた者なのです!」


 ここまで身の程知らずだと見ていて笑いすら出てくる。

 まあもう少しコイツと遊んでやるか。その間にリョウクウ達がこの屋敷に捕らえられている誰かを助け出してくれるだろうから時間稼ぎには丁度いい。


「じゃあオレはそれよりも強いってわけだなー。そらよっ」


 オレは一瞬で魔法陣から出てきた悪魔を瞬殺した。

 こんな連中、言ってもBクラスのモンスターと大差変わらない。


「バババッ、バカな!? 魔族を一瞬で消しただと??」

「こんなヤツ肩慣らしにもならねーよ。もっと強いの出してみろよー」

「キサマ、知らんぞ。ワタクシですら制御できない者を呼んでやる! まあキサマを生贄にすれば喜んで帰るだろうからな!」


 そう言って貴族の男は何かを呼び出した。

 どうやら一つ目のサイクロプスのようだ。


「その粗暴な巨人になぶり殺しにされて喰われるがいい!」

「へー。コレでオレが倒せると思ってるのかよ!」


 オレは槍をサイクロプスの眼に突き刺し、噴水の水を使ったウォータートルネードのスキルで全身粉々にしてやった。


「バ、バカな!?」

「身の程を知らないバカはテメーだよ!」


 オレはそう言うと貴族の男の周りのバリアフィールドを槍の石突で軽く叩いてやった。


 パリンッ!


 光のバリアはオレの一撃で一瞬にして粉々に砕け散った。


「嘘だ! 嘘だ! 信じられん! ミスリルの武器ですら一切の攻撃を通さないワタクシの最高の防御魔法が……こんなに簡単に……」

「はっ? この程度の魔法で最高の防御呪文だって? オレの仲間には流星の魔法で味方を傷つけないためのバリアフィールドを広範囲で張れるヤツがいるぜ」

「りゅ! りゅりゅりゅ流星の魔法だとぉおおおおおっ! まままま、まさか……それはででででで……伝説の、だだだ大魔じょじょじょじょ女……エエエエンンットッラ!?」

「おうよ、オレは大魔女エントラのダチだぜー」


 流石の魔法自慢だった貴族の男も大魔女エントラの名前を聞いた途端、放心するしかなかったようだ。


「あ。ハハハハ……勝て……勝てるぅワケない……公爵派一のぉ大魔法使いと呼ばれたワタクシ……サークル伯爵が……アハハハハ……」


 どうやらあまりの現実の強烈さにサークル伯爵とやらは完全に壊れてしまったようだ。

 まあ普通に考えてあの伝説の大魔女エントラと比べれば誰だって勝てるわけがない。

 だからといってコイツのやったことは到底許せることではない。


 まあその前に早くここに捕らわれた人物を助け出さないと。


「カイリ様、奥の部屋に女性がいました!」

「おう、ありがとうよー」


 リョウクウが奥の部屋から連れてきた女性は、長い黒髪に切れ長の深い紫色の瞳のスラっとした美人だった。

 見た感じはどうやらこの辺りの国というよりは、ミクニの方の人物といった感じだろう。


「貴方方は?」

「心配しないで下さい。小生達は敵ではございません。貴女達をお助けに参りました」

「有難う御座います。わたくしは、『ゴテン・ブーフフィール・ヴァイスシュタイン』と申します」


 どうやらこの島に捕らわれていた人物はかなりの大物だったようだ。

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