720 どこに着陸するべきか
ボク達はターナさんをグランナスカに乗せることを諦め、脱出することにした。
「全員、吹き飛ばないように床に伏せるんだ!」
グランナスカの貯蔵庫に乗せられた人達は指示通り全員が覆いかぶさるように床に伏せた。
子供達はシートとシーツの二匹が覆い包む形でお腹のフワフワの毛の下に匿われている。
脱出準備が完了したことが分かったソウイチロウさんは、グランナスカのレバーを普段の反対方向に思いっきり引っ張った。
「逆噴射フルバーストだぁああっ!」
レバーが引かれ、翼の形が前後反転したグランナスカの翼から最大限の空を飛ぶ力が発射された!
「いぃっけぇぇええええええっ!」
グランナスカは凄まじい速さで空帝戦艦アルビオンの反対側に飛び出し、その姿はあっという間にアルビオンが見えなくなるほどだった。
その移動力はどこまでも後ろに下がり続け、翼からの力が無くなるまでにかなりの時間がかかった。
グランナスカが空中で止まったのは空帝戦艦アルビオンの存在した山岳地帯から大きく離れたレジデンス領の外れだった。
その後ソウイチロウさんは操縦桿をいじり、グランナスカの翼の向きを普段通りに戻した。
『ふー、久々に肉体使うと疲れるな、それじゃあユカに身体を返すよ』
『は、はい。わかりました』
いや、これはボクのせいでもある。
パレス大将軍と戦った上に背中にオリハルコンのナイフで傷をつけられていてそりゃ身体が無事なわけがない。
そんな状態なのにソウイチロウさんは無理言わずに空帝戦艦アルビオンからの脱出を成功させてくれたんだ。
幸いグランナスカの中の人達は全員が指示通りに伏せたことで大した怪我も無く無事に済んだ。
ボクの怪我はエリアさんが治してくれたのでもう痛みは無い。
さあ、次にするべきことはこの船に乗っている人達をゴーティ伯爵の所に連れて行く事だろう。
彼は人格者だ。
攫われた難民を助けて欲しいと言えば話を聞いてもらえるだろう。
最悪それが難しければボクの父さんが今は男爵で村長なので村で匿ってもいいかもしれない。
「さあ、ゴーティ伯爵の城に向かうぞ」
ボクはグランナスカをゴーティ伯爵の城目指して飛ばした。
城の上空にグランナスカが現れた時、警戒されて弓矢や魔法を放たれても困る。
ここはバリアフィールドを貼ってもらっておこう。
「エントラ様、バリアフィールドの魔法を貼ってもらえますか?」
「嫌だねェ」
「え?」
いきなり断れるとは思わなかったのでボクは混乱してしまった。
「嫌……って、それは何故?」
「あのねェ、人間見たことも無いような巨大な物を初めて見てそれに全く手も足も出ないとなると恐怖心が生えて抜けなくなってしまうからねェ」
そういえばそうだった。
この世界で空を飛ぶものなんてものは空帝戦艦アルビオンや空を飛ぶドラゴンといった空を飛ぶ脅威しかイメージできるものはない。
ボクは少し計画を変え、城の近くの街道の開いた場所にグランナスカを下ろし、先に一度伯爵に会ってから城の近くに着陸することにした。
ああ
「ふむ、まあ城までの移動ならワシが乗せてやろう。ワシの龍の姿はゴーティ坊も見ておろうし」
伯爵の城の近くの街道にグランナスカを着陸させたボク達は、船に乗ったままの人達にこの辺りのモンスターは強いから絶対に船から降りないように伝え、ゴーティ伯爵の城に向かった。
アンさんの変身した姿は伯爵の兵士達も知っているのでボク達は警戒されることなく無事城に到着することが出来た。
「これはこれは、ユカ様、よくお越し下さいました。ホーム様、ルーム様、お帰りなさいませ」
「急ぎで伝えたい事があるのでお願いできますか」
「承知いたしました」
早急の用事だと理解してくれた執事はすぐにゴーティ伯爵に取り次いでくれた。
「これはこれは、ユカ様、皆様、お元気でしたか」
ボクは今までの話の流れをゴーティ伯爵に伝えた。




