719 空帝戦艦墜落寸前
ダメだっ! このままでは攻撃をそのまま受けてしまう!
『ユカ! そのバロールの眼を掲げてみろ』
『は、はい。わかりました』
ボクは痺れる腕でどうにかバロールの眼の水晶を掲げた。
すると、重力の力が瞬く間に水晶の中に吸い込まれていく。
「何だと!?」
パレス大将軍は絶対の技が破られたことに少し動揺していた。
「だが、この一撃は止められまい!」
彼は既に跳躍をし、天宮の衝撃もろとも自らの身体を重く振り下ろしてきた。
このままではこの船自体がバラバラになってしまう!
ボクは新生エクスキサーチでパレス大将軍の剣を受け止めた。
二人の剣の間で力が行き来する。
さらにバロールの眼の水晶に溜められた重力まで加わり、この力のバランスが崩れれば地面に墜落するまで待つことも無くこの空帝戦艦アルビオンは木っ端みじんだ。
ボク達の力は今どちらかが崩れれば、一気に相手に力が襲い掛かる状態だ。
そのため、ボク達は二人ともその場で動けないでいた。
だが、このままこの状態を続けていても船が墜落して全員全滅だ。
その前に戦いを終わらせなくてはっ!
そんな緊迫を切り裂いたのは、一本のナイフだった。
グサッ!
「え!? ……ターナ……さん」
「ユカ、ゴメンよ、アタシ……」
ボクの背中を後ろから刺してきたのはターナさんだった。
彼女はオリハルコンのナイフでボクを突き刺したのだ。
ボクとターナさんには相当のレベル差があるが、オリハルコンの武器なら高レベルの相手に傷をつけるくらいは可能だ。
「っ!」
それをきっかけに場の流れは一気に変わってしまった。
パレス大将軍の攻撃の重力や雷の力が全てボクの側に一気に押し寄せてきたのだ。
このままこの攻撃を受けてしまえばボクの身体もこの船も全てバラバラになってしまう!
ボクは痛みに耐えながらバロールの眼の水晶を力の中心に押し込もうとした。
するとバロールの眼の水晶はその場にあった力を全て吸い取り、不気味な音を立てだした!
その際の衝撃でターナさんとパレス大将軍は後方に大きく吹っ飛んだ。
--キュィイイィン……キィイィィィンン。
そして水晶はボクが手で持ちきれない程の高熱を発し、激しい光を放ち出した。
これは! バロールの破壊光線と同じものだ!
「うぉぉおおおっ!」
ボクは上に向かってバロールの眼の水晶を放り投げた。
するとボクの放り投げたそれは、蓄えた力が極限状態になって上空に向かい一条の光の線が放たれた!
シュバァッッ‼
激しい光が一瞬で空帝戦艦のサブマストのプロペラ部分を焼き砕いた。
その衝撃で船は大きく傾き、これ以上は地上に墜落するまで時間が無くなってしまった。
「ユカさん、もう限界です! 早く脱出しましょう」
「こちらの避難誘導は完了しています」
「雑魚の後始末はきちんとやっておいたからねェ」
そうだ、早く脱出しないとボク達が全滅だ。
しかしターナさんを連れていかなければ、彼女はここの兵士達に技師として連れ去られたのだから。
「ターナさん、早くこちらに!」
「ユカ、残念だけどアタシはそちらには行けない……もう、住む世界が違うんだ。さようなら」
「ターナさんっ!」
ダメだ、これ以上説得していては他の人達と脱出することすらできなくなる。
ボクはターナさんを救い出すことを諦め、その場の人達と空帝戦艦アルビオンを脱出することにした。
全員が飛行艇グランナスカに乗り込み、最後にボクが飛び乗って操縦席に座った。
その時、ソウイチロウさんの声が聞こえた。
『ユカ、話している時間は無い、身体を借りるぞ!』
半分強引にソウイチロウさんはボクの身体を使い、操縦桿を普段の反対方向に一杯に引っ張った。
「この際の脱出は逆噴射でなきゃ無理なんだ!」
ソウイチロウさんが操縦桿を引っ張ったことでグランナスカの翼の向きが水平方向に半回転した。




