718 狂戦士(ベルゼルガ)パレス
ボクが狂戦士化したパレス大将軍をバロールの眼の水晶レンズ越しに見ると、そこにはとんでもない数値が表示されていた。
LV90 HP65535/63456
何ということだ!
魔将軍アビスの狂戦士化の魔法はリミットブレイクをしたパレス大将軍の限界すらも大きく上回る凄まじい強さになっていた。
「グァアアアアアアオオオウウウウッッ‼」
眼を真っ赤にし、怪鳥の叫びのような雄たけびを上げながらパレス大将軍がボクに猛ラッシュをかけてきた。
強い! 強すぎるっ!
だがここで下手に一騎打ちをやめるわけにもいかない。
下手すればボク以外も攻撃目標にしてしまい、辺り全てを皆殺しにしてしまうかもしれないからだ。
ここはどうにかボクがくい止めるしかない。
「キャハハハハッ! 狂戦士化したパレスちゃん相手にどこまで耐えられるかしらね。今まで散々アタシちゃんに煮え湯を飲ませてきた事、後悔するのねっ!」
魔将軍アビスは半分壊れた自動攻城兵器の上で高見の見物をしている。
その表情はとても愉快そうで、ボクが苦しむのが楽しいようだ。
「――っく! このままでは……」
ボクは新生エクスキサーチを構え、パレス大将軍の猛攻を耐えている。
このままでは隙が無さ過ぎて、バロールの眼をしまうどころではない。
ボクはバロールの眼の水晶レンズを新生エクスキサーチに重ねた。
この剣は力を蓄えることが出来る剣、そしてバロールの眼は全ての力を細い線にして一気に解き放つ力がある。
どうにかパレス大将軍の剣を手から弾き飛ばせば、ボクにも勝機は見える!
ボクがそう考えた時、思いもよらないことが起こった。
「ウォオオオオおお……おおお……おお」
怪鳥の叫びのような雄たけびを上げて狂戦士化していたパレス大将軍の声が普段のものに戻って来ているのだ。
そして真っ赤になっていた目は普通の状態に戻っていた。
「なっ……ありえないわっ! 何でアタシちゃんの狂戦士化の魔法が解けるのよ!?」
「いや、魔法は解けていない……」
狂戦士化は続いているとパレス大将軍は言った。
「この程度の状態異常魔法で我の精神を脅かせると思っていたのか、帝国に仇為す毒婦よ」
「何よ何よ何よっ! どうなっているのよ、信じられないわっ!」
魔将軍アビスは計算外の事に憤慨していた。
「我はこの魔法での強化のみの効果を手に入れ、精神力で邪の浸食を食い止めたのだ!」
「キー! もういいわ。もう沢山よ! こんな場所さっさと粉々になっちゃえばいいのよ! まあいいわ、この国をメチャクチャにする計画はまだまだ残ってるんだから、覚悟しなさい!」
魔将軍アビスはそう言うと眷属の三匹を引きつれ、自動攻城兵器の残骸とともに姿を消した。
彼女達が姿を消し、その場に残ったのは気力を失っているターナさんだけだった。
ボクは正気を取り戻したパレス大将軍と一騎打ちの決着をつけることになった。
これ以上戦いが続けば狂戦士化の魔法でパレス大将軍が死んでしまう。
また、これ以上戦いが続けば脱出する前に空帝戦艦アルビオンが墜落してバラバラになってしまう。
そういう意味でも次の一撃が全ての決着になるだろう。
「どうやらお互い次が最後の一撃のようだな」
「望むところだっ!」
パレス大将軍は愛剣、天宮の衝撃を高く構えた。
「悪く思うな、これが我の最強最大の絶技だ!」
ボクはバロールの眼を重ねた新生エクスキサーチでパレス大将軍の剣を受け止めることにした。
もしボクがこの攻撃を避けたり、耐えきれなかった場合、墜落するよりも先にこの空帝戦艦アルビオンはバラバラに砕けてしまう。
「行くぞ! ウォールの息子、ユカよ! 絶技、稲妻……重力」
ボクの身体を凄まじい重力が襲った。
か、身体が動かない!
このままでは、攻撃を受け止めるどころではないっ!




