717 バロールの眼の水晶
ボクとパレス大将軍の一騎打ちを悪意のある視線が見つめている。
だがボクはその時まだその正体が何なのかは分かっていなかった。
リミットブレイクしたパレス大将軍の剣戟は流石に強烈だった。
その強さは魔将軍パンデモニウムに匹敵する強さだ
彼が人類最強の男、最後の希望と呼ばれるのも納得の強さだ。
だがボク達はあの古代の魔神バロールを倒した。
その強さからするとボクの方が若干パレス大将軍を上回っていると言えるだろう。
『ユカ、少し気になることがある。少しだけ時間を稼げるか?』
『ソウイチロウさん、そんなに長時間は持ちませんよっ!』
『ユカ、お前がカバンにしまったバロールの眼のレンズを出してみてくれ』
『そんな、戦闘中に関係ないことできませんよっ!』
一体ソウイチロウさんは何を考えているのだろうか。
このタイミングで戦闘を中断させてまでボクに何かをやらせようとは……。
『論より証拠だ! ユカ、片目をつぶってみろ』
ボクはソウイチロウさんに言われたように戦闘の合間を縫って片目をつぶってみた。
すると、パレス大将軍の上部に何かの数値が見えた。
LV48 HP8500/8318
これは一体何の数値なのだろうか。
『ソウイチロウさん、この数値は何ですか!?』
『これはパレス大将軍の本来の強さだ。』
だがどう考えてもこの強さはドラゴンやギガンテスといったSS級モンスターの強さだ。
リミットブレイクをしたパレス大将軍がその程度の強さのわけが無い。
『ユカ、次はバロールの眼の水晶を通して片目で見てみろ』
ボクも今回は素直に従いながらパレス大将軍を睨んだ。
すると、パレス大将軍にはあり得ない数値が表示されていた。
LV70 HP 35000/39184
HPの上限を上回っているのはリミットブレイクのスキルがオーバーヒールの効果を持っているからだろう。
このバロールの眼から見たらパレス大将軍の強さも納得だ。
彼はリミットブレイクで本来の力の三倍以上の力を発揮しているのだ。
父さんの持つスキルは鉄壁防御だった。
その父さんが盾役になりながらゴーティ伯爵やパレス大将軍と一緒に魔族の軍勢と戦っていたのだろう。
その最強のパレス大将軍がボクの目の前にいる。
だがボクに見えるパレス大将軍の数値がおかしな事になっていた。
LV70 HP35000/29430
ボクと大して戦っていないのにパレス大将軍のHPがどんどん減っているのだ。
『ソウイチロウさん、コレって!?』
『多分リミットブレイクの弊害だろう。あれは限界を超えた力を肉体に一時的に与える。だが、その分、身体への負担も大きく悲鳴を上げているのだろう』
なるほど、このまま戦い続けてはパレス大将軍が死んでしまう。
どうにか戦いを止めなくては。
ボクはパレス大将軍の剣を受け止めながら彼の体力消費を狙った。
これ以上戦えないという状態になった時にようやく彼と話し合いができると思ったからだ。
だが、その考えは一人の、いや、一匹の悪意ある魔族に邪魔されてしまった。
ボクにパレス大将軍が襲い掛かろうとした時、後ろの方から魔法がパレス大将軍目掛けて放たれたのだ
「狂戦士化」
魔将軍アビスに狂戦士化の魔法をかけられてしまったパレス大将軍はその場で動きを止めた。
その直後、彼は魂が擦り切れるような凄まじい雄たけびを上げた。
「ギュォオオオオオオオオオオオオおおおッッ!」
パレス大将軍がボクに襲いかかる。
その強さは先程までよりよほど強かった。
この強さは……下手すればバロールに匹敵する力だ。
ボクとパレス大将軍の戦いを見ていた魔将軍アビスは笑いながらこう言った。
「あら、やはり戦いは同じくらいのレベルで無いと面白くないわよね。そうそう、その狂戦士化の魔法は相手を殺すか本人が死ぬまでは決して解けないのよ……キャハハハハハ」
ボクは狂戦士化したパレス大将軍をバロールの眼越しに覗いてみた。




