707 正しき神の加護を
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「さあ落ちろ、落ちろー!」
だが命綱を断ち切られた男は微動だにしなかった。
「何故だ、何故コイツは落ちない!?」
「私には正しき神、エイータの加護がある。お前達のような邪悪な者、ダハーカの手下の思うようにはならない!」
彼はそう言いながら自ら甲板から飛び下りた。
「はっ、負け惜しみを……何だ言いながら自ら自殺しているではないか」
「神を侮辱しおって、貴様こそ邪神ダハーカに魂を売った背教者だろうが!」
しかし貴族連中が憤慨したのはその後の事だった。
「な……どうなっている!?」
なんと、彼は飛び下りながら先程風で吹き飛ばされた貧しい家族の方に自らの力で飛んでいるのだ。
そう、彼は風の魔法を使い自在に空を飛べるスキルを持っていた。
「あ……悪魔だ、あいつは悪魔に魂を売って力を得たのだ」
「いや、アイツは元から優秀なビショップだった。何故だ、何故アイツの舌を切っておかなかった!?」
「イグレシア枢機卿殿……アイツは一体誰なのですか?」
「アレは異端者のプレイス……元司祭候補にまでなった天才だ……」
先程飛び下りた人物はプレイス、彼はレベル30相当のビショップで風の魔法を使いこなすエキスパートだった。
風の魔法を使いこなすスキルを持つ彼は、流動する風を操り先程吹き飛ばされた親子を風の中で捉えることに成功した。
「少し手荒なやり方だったけど、どうにか間に合ったようです……神よ、力をお貸しいただけたことに感謝致します」
「儂の余興を台無しにしおって……殺せ‼ 絶対に見せしめに殺してしまえ!」
テリトリー公爵の命令で空中のプレイス目掛け砲撃が放たれた。
だが、その時いきなり空帝戦艦アルビオンの動きが止まった。
ドンッ!
パーティー会場には苦しそうに胸の部分を抑えながら屈むターナの姿があった。
彼女は自らの心臓とこの艦の機関部を連動させている。
つまりは彼女が自らの胸を強く打ったことで、アルビオンのメインシステムとも言える機関部が一時的に動きを止めたのだ。
「くっ、どうなっている! パーティーがメチャクチャではないかっ」
「申し訳ございません、謎の不調で現在この船は空中で停止状態になっています」
プレイスを狙った砲撃は何故か初回だけでそのまま止まってしまった。
彼は持てる魔力の全てを使い吹き飛ばされていた親子を風の中でコントロールしているが、それも長くは持たなそうだ。
「くっ……私に力があれば彼等を無事地上まで下ろすことが出来るのに……。このままでは全員……」
プレイスは持てる魔力の大半を使い果たし、限界に到達していた。
レベル30の魔力ではここまで持った方が凄いとも言えるレベルだ……。
「くぅっ……無念だ、どうやら私の力はここまでのようだ……神よ、申し訳ない……弱い人を助ける事の出来ない無力な私を許して欲しい……」
魔力の尽きたプレイスはそのまま吹き飛ばされることになってしまい、どうにかコントロールしていた風も消え、親子は再び空中に放り出されてしまった。
今度こそもう助からない、落ちる全員がそう覚悟を決めた時、遥か上空から巨大な黄金の鳥が姿を現した!
「あ……あれは、神の鳥?」
天空から舞い降りてきた黄金の鳥から何かが飛び出してきた。
「ふう、危機一髪ってとこだねェ」
「こちらも問題は無いぞい。童どもも少し弱っておる程度じゃ」
「お師匠様、こちらの男性も無事ですわ」
プレイスは突然の目の前の展開に唖然としていた。
だが、彼が命を懸けても守りたかった人達の命はここにいる謎の人物達によって助かったのが事実だ。
「こ……これは神の奇跡か……」
彼は到底信じられないものを目にしている。
自在に空を飛ぶ女性達、しかもその力は風の魔法のエキスパートであると言われている彼を遥かに上回るものだった。
「安心してくださいませ、貴方の敵は私達の敵でもありますわ!」
そう、天空から降りてきた黄金の鳥はユカ達の乗ってきた大型飛行艇、グランナスカだったのだ。




