706 許されざる悪魔の所業
今回の話はかなり胸糞注意です
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艦内のパーティー会場で巨大水晶の板を見ている貴族からは笑いが起きている。
先程兵士が風で艦外に吹き飛ばされたのが面白かったようだ。
対岸の火事の不幸は彼等彼女等の大好物だ。
自分以外が不幸になること、無様に死ぬ様子は面白可笑しい演出に過ぎない。
だから誰一人としてここにいるもので吹き飛ばされた兵士を悼む者は存在しない。
「すまぬ、ヨハン……」
いや、この中で吹き飛ばされた兵士を悼んでいる者が二人だけ存在した。
それはパレス大将軍とターナだ。
成り行きでここに来ることになってしまったターナはともかく、パレス大将軍ともあろう人物が何故たかだか一人の兵士にそんなことを思うのだろうか。
実は彼はこの艦内にいる兵士を全員把握している。
兵士に厳しい規則を律している彼であるが、彼がサディズムで兵士を苦しめているわけではない。
つまり彼は国の為に厳しい訓練や軍律を兵士達に課しているのであり、本人の楽しみの為にいたぶる貴族等とは根本が違うのだ。
それ故に貴族が笑い飛ばしている転落死した兵士もパレス大将軍の中では大事な部下だったと言える。
何度も言うが、そのような立派な軍人である彼が何故このような外道の群れである公爵派貴族に従っているのか……それは本人しか知りえないことなのである。
そんなパレス大将軍の気持ちとは裏腹に、貴族達の余興ともいえる貧民の処刑が次々と始まった。
「この者は連続婦女暴行の犯人です、何度投獄されても改心しない為死刑が確定しました」
だがそんな犯罪者に貴族達は何の興味も示さなかった。
「フン、たかだか貧民のメスが襲われた程度だろう。そんなの罪でもなかろう。無罪でもいいのではないのか」
「つまらないわ、悪人殺しても何の楽しみも無いじゃない」
「どうでもいいからさっさと殺せ」
男の命綱が断ち切られ、艦外に蹴り落とされた。
男はそのままどこかに落ちたようだ。この高さから落ちて助かるわけがない。
次の処刑執行は親子連れだった。
「なぜだ、おれたちはきちんとぜい金をはらったはずだ。それなのになぜ」
水晶板を見ていた貴族の一人が誇らしげに説明を始めた。
「この者達は税金を期限内に払わなかった者達です。期限の夕方に間に合わず、夜になってようやく払ったというのですが規律を守れない者は当然死刑が相応しいかと」
「なんと、タバタ男爵は期限の夕方まで待ってあげたというのですか。何とお優しい」
「ワシなら期限の日の朝に間に合わなければすぐに処刑するがのう……」
泣き叫ぶ子供と母親、母親はどうにか子供を抱えようとしていたが命綱が無慈悲に切り落とされ、親子ともども空に消えていった。
さらに必死で子供を手に抱えていた母親だったが、それも空しく力尽きてしまい空中で親子はバラバラになってしまった。
泣き叫ぶ父親の命綱が切り落とされたのは妻と子供が消えた後だった。
「ぢごくにおちろぉおおお! ノロってやるぅぅうう‼」
次々と処刑が執行されたが、貴族連中の怒りを最も買ったのは次の罪人だった。
次の男は如何にも賢そうな人物だった。
「この者はこともあろうに……神父である立場を使い貧民に無償で勉強を教えていた反乱分子です!」
それを聞いた貴族達から怒号が飛び交った。
「なんと、何という許されざる悪魔の所業だ!」
「許すな、異端者、背教者を殺せ!」
「貧民に知恵を与えるなんて、反乱を企てるのと同じだというのに、愚か者が」
捕らえられた男が叫んだ。
「勉強を教える事の何が悪い! 人間は知識を欲する生き物だ、それを妨げる事がお前達には許されるというのか!」
「フン、人間というのは神に愛されたワシら貴族のことだ。お前達は所詮家畜、神がワシら人間に使役させるために用意したモノに過ぎん。その家畜が吠えて主人に逆らうことが自然の摂理に反しているのは当然のこと」
「残念だよ、貴公は優秀な信徒で儂の後継者にもなれる器だったのに、悪魔にそそのかされるとはな……」
そして男の命綱が断ち切られた。




