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703 皇后アリスとイミテイト子爵令嬢姉妹

◆◆◆


 空帝戦艦アルビオンはさながら晩餐会の会場と化していた。

 音楽隊により演奏される中、貴族諸侯は庶民では一生口に出来ないような食事を楽しみ、いかに庶民を苦しめて楽しんでいたかを談笑している。


 貴族諸侯とは反対に兵士達は声一つ出さずその場で黙々と自身の命令された仕事を遂行していた。

 そんな兵隊に向かいワインをかけて笑っている貴族もいる。

 それでも彼等は反撃どころか声を出すことすら許されていないのだ。


 これが公爵派と呼ばれる貴族達である。


 このパーティー会場は庶民一切立ち入り禁止なので話されている内容はクローズドなものばかりだ。

 だがその一つ一つが到底まともな神経を持っている人間なら耐えられるようなものではない。

 そんな中でターナは貴族の会話を黙ったまま聞いていた。

 批判したくても所詮、自分自身がもう後戻りはできない一つの村を丸ごと滅ぼす大量殺人に加担してしまったのだ。


 その自責の念は彼女から判断能力を消してしまった。

 多かれ少なかれここにいる人間達は全てが弱者を踏みにじり命を奪ってきた悪鬼のような集団なのだ。

 見た目は見眼麗しいが、その中身は汚泥にも劣るような魂の腐った者しか存在しない。


 所詮は虚構の晩餐会でしか無いのだ。


 その事実を受け止めることにしたターナは、このチャンスで全ての貴族諸侯を空で葬れば自身の罪も許されるのでは……と考えた。

 実際彼女はこの空帝戦艦アルビオンをいつでも爆破できるように自らの命と連動した自爆装置を取り付けているのだ。


 この船が空に舞い上がり、誰もいない空域に到着した時、彼女はこの場にいる全ての者達を巻き添えに自爆することを決意した。


「そう、これがアタシのやるべきことなんだ……」


 ターナはその場にいる貴族を全て把握する為に乗艦リストを技術主任の権限で用意させた。


 『シャトー侯爵夫人』『バスラ伯爵』『パティオ子爵』何名か予定した貴族が乗船できていないが、彼等彼女等は全てユカ達によって倒された者達だ。

 だがそんな事情を知っている者はこの中にはいないのでただ欠席とだけ記されている。


 その中でターナは最も目にしたくない名前を目にした。


『ヨーゾ・テリトリー公爵』


 公爵派のトップで前王妃の弟にあたる人物だ。

 そしてこのテリトリー公爵こそがターナの父親を拷問し、この空帝戦艦アルビオンを発掘後修復させた張本人だ。


 いわば彼こそがターナの仇とも言える男だとも言えるだろう。


 そのテリトリー公爵がこの船に乗船するというのだ。

 これは最大のチャンスだと言えるだろう。

 彼女はテリトリー公爵の到着するのを待つことにした。


 迎賓門で待つターナの前に豪奢な馬車が到着した。

 これだけ豪華な馬車ならテリトリー公爵のものかもしれない!


 だが、馬車から降りてきたのは四人の女性だった。


「あら、見かけない顔ね。まあいいわ、キャハハハハッ」

「失礼ですが、お嬢様……招待状はお持ちでしょうか?」

「あら、アタシちゃんのことを知らないのかしら? まあ所詮下っ端が知ってるわけないわよね。アタシちゃんはね……」


 女性が門番を睨むと、門番の男は力が抜けたようになっていた。


「アリス皇后陛下……失礼致しました。どうぞお通り下さい」

「そうそう、それでいいのよ。この娘達はイミテイト子爵の娘、アタシちゃんが今日デビュタントの為に連れてきたのよ」


 アリスと呼ばれた女性の後ろに三人の貴族の令嬢が付いて歩いてきた。

 どうやら三人とも姉妹のようだが、全員顔が似ていない。

 全員腹違い等というのは、貴族にはよくあることなのでだれも気にしていない様子だ。


 四人の美女達は乗艦した途端、貴族の男達に言い寄られていた。

 だがターナにはそんなことはどうでも良かった。

 それよりも彼女が待っているのは仇のテリトリー公爵だ。


 そして最後の馬車が到着し、その中にターナにとって憎き仇のテリトリー公爵が乗っていた。

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