702 艦上部と最下層の分厚い格差
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空帝戦艦アルビオンの巨大さは普通の船の数十倍以上だ。
言うならば大海賊カイリの自慢の大型海賊船アトランティス号の数倍以上と言えばその巨大さが伝わるだろうか。
アトランティス号はカイリの船で世界最強最大の海賊船だ。
その大きさと強さは通常の帝国海軍が軍艦で束になっても敵わないほどだ。
それもそのはず、この船は真紅の大海獣レッドオクトと戦い生き延びた船だ。
だが、空帝戦艦アルビオンと比べてはいけない。
これは既に空を飛ぶ宮殿とも言えるサイズだ。
その全高は下から上のマストが見えない程高く、全長は船の端が目視では見えない程だ。
この巨大な怪物を空に飛ばすことが出来ていたという古代ゴルガ文明の脅威を誰もが感じるだろう。
そのアルビオンが王都の一般人立ち入り禁止の大広場に到着した。
いや、大広場というにはあまりも広すぎて何も無い整備された土地だ。
本来ここは陸軍の軍団が総員集合するくらいの場所で、演習地として使われている場所だ。
そこに空飛ぶ大宮殿とも言える空帝戦艦アルビオンが到着した。
船からはタラップが降ろされ、赤いカーペットが長く敷かれた。
これから貴族諸侯がこの船に乗るからだ。
最初に到着したのはストラーダ国土交通大臣だった。
まあそれもそのはずだ。
何とこの場所に来るのに彼は自宅から三回角を曲がるだけで王宮に辿り着けるような道を突貫工事で作らせている。
この場所はその宮殿に辿り着くための三回目の曲がり角に当てはまる場所なのだ。
「ふん、鈍間ばかりだな。ワシが一番乗りか……まあ当然と言えば当然じゃわい」
ストラーダ国土交通大臣は髭をいじりながらカーペットの上をふんぞり返って歩き出した。
兵士達がうやうやしく礼をする、それを彼は鼻で笑いながら船の中に入っていった。
その後次々と貴族の馬車が空帝戦艦アルビオンの前に到着していた。
豪華な入口からは次々と貴族が入っていく。
その裏側では木箱に入った物資が大量に運び込まれていた。
大量に積まれているがこれで一日分の食料だ。
これが後三十日分は積み込まれる。
だがそれでも空帝戦艦アルビオンの貯蔵庫全体ではほんのわずかなスペースに過ぎない。
この船は数年間飛び続けることが可能な造りをしているのだ。
その際の物資補給は飛空艇を使っていたのだろう。
陸路以外も空中からもアルビオンに物資は積み込まれている。
その中には何とも可笑しな物体も含まれていた。
巨大な車輪の一部と、まるで城を建てるかのような巨大な城壁になるような石レンガ、それ以外にも大量の武器が詰め込まれた。
「おい? コレって一体何なんだ?」
「知るかよ、お前……私語を話していると……!」
グサッ、ザシュッ‼
二人の兵隊だったモノが物言わぬ屍になっていた。
「誰か、このゴミを片付けておけ!」
兵隊達は無表情のまま同僚だった兵士二人の屍を無造作にゴミ捨て場に投げ捨てた。
全員がまるで操り人形だ。
兵隊達は黙々と上の命令に従い、物資をアルビオンに積み込んでいる。
その間にも貴族達は次々と迎賓側の入り口から入艦し、それぞれに用意された部屋に入室していった。
その部屋の広さたるや、一流のホテルや宮殿にも匹敵するほどの広さだ。
普段の兵隊達の下層部の暮らしとはまるでレベルが天国と地獄というくらい違う。
この船の形が今の帝国の形を象徴しているとも言えよう。
上部は華美で豪奢、貴族諸侯が何もせずに飲んで食べて遊ぶだけ、下層部は徴収された兵隊達が黙々と私語も許されず寝る時ですら全て監視されている。
下層部は自由は全く存在しない世界だ。
そう考えるとターナの処遇は貴族とは言わずとも将校に準ずるものなのでかなり優遇されていると言える。
「気に入らないね……」
ターナはパーティー会場で談笑する貴族達を尻目に一人呟いていた。




