701 王都到着
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「おお、コレは何と美しい。貴族のご令嬢にも引けを取らない程だ」
ドレスアップされたターナは素材の良さから絶世の美女に変貌した。
大きな胸を覆うドレスはその谷間を隠し切れない、だがむしろそれが彼女の健康そうな肉体をアピールする武器になっているのだ。
そして元来の小顔に長身というスタイル、凛とした姿は女騎士だと言っても通用するくらいだ。
そしてくせ毛だった赤毛は女兵士のメイクアップ技術で整えられ、それが個性的かつ魅力的な彼女を一段と際立たせている。
本人は気乗りしていないが、兵士の大半が艦長室に向かうターナの姿を見て釘付けになっていた。
そして今彼女がいるのはパレス大将軍のいる艦長室だ。
「アタシに一体どうするつもりなんだよ?」
「いや、特に何かをするというわけではない。ただ貴女をこの空帝戦艦の最高の技術主任だと紹介するだけだ。これからこの船に貴族諸侯が乗船される。そのパーティーに貴女もぜひ参加してもらいたいのだ」
ターナは理由を説明されてもいまいち解せぬ様子だった。
「おや、流行りの服は嫌いですかな」
「知らないよ。アタシ今までにこんな服着た事なかったからね。しかしこの服は動きづらいね、全身覆われてるような感じだよ」
ターナは普段作業着やオーバーオールのような技術者、鍛冶屋の服を着ている。
ほつれたら自らが繕って何度も直して着るものだ。
それに比べると今のこの服は華美だがまるで動きづらい、足の歩幅を広く取ろうとすると転倒しそうになるくらいだ。
また服の裾の部分が地面に接しているので走ることも出来ない。
だが不機嫌な彼女にとどめを刺した一言はこれだった。
「おや、手袋はしないのですか。その汚い傷だらけの手は手袋で隠した方が良さそうですよ」
「はぁ!? 何を言ってるんだい! この手はアタシの仕事道具。アタシの誇りなんだよ! それを隠した方がいいって、アンタはアタシを馬鹿にしているのかっ!」
「いや、そうではなかったのだが……悪かった、謝ろう」
ターナにとって仕事を続けてきた手は自らの誇りとも言えるものだ。
その手を汚いから手袋で隠せと言われたのだ。
それは彼女の仕事を否定されたのと同じようなことだ。
「だが今から我等が相手する貴族は手袋をつけていない相手を人間と見なさない連中だ。不本意かもしれないがどうか我慢してほしい」
「はぁ? 手袋をつけていないと人間でないってどういうことだよ?」
「手袋とは本来手を守るもの、だがそれを着けるということは手先が不自由になる。つまり彼等は手先が不自由だとしても何の支障も無い生活をしている貴族が偉いと考えているわけだ」
呆れてものが言えない。
だが相手がターナの大嫌いな貴族ならそんなバカみたいな考え方をしていてもおかしくはない。
その貴族連中がこの船に大量に乗り込んでくるというのだ。
ターナはそれを聞いて覚悟を決めた。
「わかったよ、ここはアンタの言うことに従うよ……貴族様には逆らえないからな」
「そうだ。この国で貴族に逆らうのは命がいらないと言っているようなものだ……我もそれを痛感している……」
ターナは何か違和感を感じた。
大将軍とも言われる程の人物が自己保身に走る状態、これで本当に戦うことが出来るのだろうか。
だが彼女の前のパレス大将軍は貴族に全面的に従っているようだ。
ターナは何か腑に落ちないまま、長手袋をはめた。
傷だらけの手を隠した彼女の姿はどこからどう見ても技師や鍛冶屋には見えない。
どこかの貴族の令嬢か女騎士といっても十分通用するくらいだ。
船の中は慌ただしい雰囲気だった。
兵士達は所狭しと駆け回り、船の見える部分を全て宮殿並みの豪奢な装飾にしている。
「急げ、あともう少しで王都に到着するぞ!」
「了解です、後はパーティー会場の設営が完了すれば終了です」
「こちら準備完了致しました!」
そして、王都の一般人立ち入り禁止の大広場に空帝戦艦アルビオンが到着した。




