700 着々と準備は進む
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ターナは自らの胸に手を当てて、部屋の中で一人呟いていた。
「これはアタシの責任だ。アタシが作ってしまったバケモノ、それを終わらせるのはアタシしかいない……あの魔力濃縮炉に仕掛けたヤツはアタシの命と連動している……もしアタシが死ねば……この船は一瞬で大爆発だ」
彼女は自らの大きな胸の心臓部の上に手を当てた。
すると身体にとんでもない激痛が奔った。
なんとターナは自分自身で体の中に自爆装置を埋め込んでしまったのだ。
「ユカ……みんな、楽しみにしているだろうな……アタシもオリハルコンで作品を作れたなんて鍛冶屋としての一生分の幸運を使い果たしたようなもんだよ……。でもこれを渡せないまま終わるのは何だか切ないね……まあ、アタシにはそんなことはもう許されないからね、アタシは帝国の大量殺人に加担してしまったんだ。もう、後戻りは出来ないよ」
ターナはユカ達のために作り上げたオリハルコンの武器を優しい目で見つめていた。
それは苦労の末に生み出した彼女の子供とも言えるようなものだったからだ。
「みんな、正しい使い方してもらえなくてゴメンよ……アタシってダメなかーちゃんだよね……」
なんとターナは自らの命と引き換えにこの巨大な空帝戦艦アルビオンを葬り去ろうと決意していたのだ。
だがそのことに気が付いている者はまだ誰一人として存在しなかった。
「でも派手に爆発させるとしても市街地はダメだね、それこそ何の罪もない一般人を巻き添えにしてしまう……そうなると誰もいない荒野や海の高い空の上ってとこかな……」
ターナは水晶に映し出した地図を眺めながらどこでこの空帝戦艦アルビオンを爆破させるかを考えていた。
しかしどこだとしても村のあるような場所では一般人が犠牲になってしまう。
彼女は誰も人のいない候補地を探していた。
しかし下手に船を誘導するとバレてしまう。
そうさせないためには船の不具合として操舵不可能という流れに持ち込まなくてはいけない。
不幸中の幸いか、船のコントロールシステムは彼女の意志と直結させる形で改良出来ていた。
それは万が一の不時着の際に一番ダメージの少ない形で着地できるようにとの保険で組み込まれたシステムだった。
船を守るためのシステムが皮肉にも船を葬り去るための技術として使われるのだ。
しばらくの間船を自爆させられる場所を模索していたターナだったが、結論にはたどり着かなかった。
その間、空帝戦艦アルビオンは巡航モードで王都を目指していた。
「ターナ技術主任殿、失礼します」
「どうぞ」
ターナは部屋に入ってきた女兵士の持っていた物が気になった。
「それは……何?」
「こちらはパレス大将軍よりターナ技術主任殿への贈り物でございます」
「え? 一体どういう事、こんなモノ貰う覚えないんだけどね」
「はっ、これよりこの船は王都に向かいます。そして貴族諸侯の方々が乗船為されますので、ターナ技術主任殿にもお召し替えをお願いしたく存じます。」
つまりはこの後王都に到着後、貴族が船に乗船するので、ターナも彼等、彼女等を迎えるために正装しろということなのだ。
「そんな事言われてもね……」
「失礼します。不肖、小生がターナ技術主任殿のお着替えを手伝わせて頂きます」
「ちょっと、待ってよ、待ってっ!」
女兵士は手慣れた手つきでターナにドレスを着せ、化粧を施した。
ドレスアップの終わったターナが鏡を見ると、そこには全く見慣れない美女が姿を見せた。
大きな胸に小さく整った顔、普段のボサボサヘアを丁寧にまとめた赤毛は髪飾りで留められていてタイトなドレスは彼女の鍛えられたスタイルの良さをアピールしている。
彼女が普段の仕事が技師だの鍛冶屋だと言わなければ普通に貴族の男でも放っておかないような美女の姿がそこにあった。
可愛いというよりはカッコいい、凛々しいといった感じだ。
しかし慣れないドレスを強引に着させられて困惑しているターナは、今すぐにでもコレを脱ぎたいと思っていた。




