698 取り返しのつかない過ち
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ゴルガ文明の空帝戦艦アルビオンの魅力に取りつかれたターナは帝国の技術主任として機関部の修理を急ピッチで進めていた。
「そこ! ボヤボヤしてないでさっさとその外装をオリハルコンで覆え!」
「ターナ技術主任、お言葉ですがオリハルコンの量が圧倒的に足りないようです……」
「ええーい! それならオリハルコンでなくてもミスリルでもアダマンタイトでも使って補強しておけばいい!」
ターナは人が変わったかのように帝国兵をこき使いながらエンジンルームの修理作業に取り掛かっていた。
「ターナ技術主任、これ以上のペースでやれば流石にクルーが持ちません」
「ああっ? 持たないだって? ひ弱な奴らめ、それでも男か!」
「ですがこれ以上……」
ターナの手から工具が飛んできた。
「口答えするんじゃないよ! アタシの命令にはハイかイエスで答えろ」
あまりの苛烈な仕打ちに兵隊達ですらドン引きしているくらいだ。
だがそれの何が凄いと言うと、クルー達に指示する仕事量の数倍以上をターナは一人でこなしているのだ。
いくら彼女が複数の腕を使える工具を作りそれを使っているとしても常人にはとてもマネが出来るレベルではない。
それを彼女は普通の技術者に彼女と同じピッチでの仕事を要求しているのだ。
とてもじゃないがマネできるものではない。
そこにいたのは技術者の皮を被った鬼だった。
その様子を見ているパレス大将軍はあまりの復旧作業の速さに驚いていた。
「まさかこれだけのペースでこの空帝戦艦アルビオンを修理できるとは。彼女の腕は父親よりも優れているかもしれんな」
水を得た魚のようにターナはテキパキと動き、数週間、下手すれば一か月以上かかっても修理できないはずのエンジンルームを修復させた。
「よし、これでとりあえずの応急処置は完了だな。これで最低限の飛行能力は復活したはずだ。エンジン、火を入れろ!」
「了解でありますっ!」
ターナの指示でクルーが空帝戦艦アルビオンのエンジン炉を稼働させると、機関部は激しい音を立てながら回転し始めた。
「凄い! これは下手すれば以前よりも推力が上がっているかもしれません!」
「当然だ。このアタシが持てる技術の全てを使って修復……いや、改良したんだから。コレで本来のエンジン出力の二割増しで飛べるはず。そして燃費効率の悪い部分はバイパスの修復もしておいたので複数に分けたことで一つの炉の負担も減っているはずよ」
流石は魔技師というべきか。
ターナは一度取り組んだ仕事は完璧にこなさないと気が済まない性格だ。
その彼女に最高峰の環境と素材を与えたわけなので、最高峰のものが出来ないわけがない。
飛行能力の復活したことが分かった空帝戦艦アルビオンは更に修復作業を急ピッチで進められることになった。
その作業の中で何人のスタッフが倒れたのか、それは技術主任のターナですら数えるのをやめたくらいだ。
それだけの多くの人員を犠牲にし、空帝戦艦アルビオンは完全復活を果たした。
オリハルコンの足りない部分はミスリルやアダマンタイト、ゾルマニウム等で補強されているとはいえ、その見た目と能力は太陽砲台ソルブラスターの一撃を喰らう前よりもさらに上がっていると言えよう。
ターナは技術主任として最高の仕事をやり遂げたという実感があった。
それは彼女にとって最高の瞬間だったのかもしれない。
……だが、この後のアルビオンの行動がターナの心をズタズタに切り裂いた。
「空帝戦艦アルビオン、目標攻撃地域に到着。これより……殲滅兵器を投下する」
「え……殲滅兵器? 何それ」
「ターナ技術主任のおかげです。バイパスの改良で今までよりも殲滅兵器のチャージ時間が半分以下に短縮されました」
「何それ……アタシ、そんなの聞いていないよっ!」
うろたえるターナの目の前で空帝戦艦アルビオンの艦首が開いた。
それは地面を焼き払うためのフォトン砲だった。
この時、ターナは自らが修復したアルビオンが恐るべき破壊兵器だったということにようやく気が付いてしまったのだ……。




