696 ターナ・スミソニアン
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「これはアタシの特製ライトニングスタンロッドだよ! 黒焦げになりたい奴は誰だい!」
ターナは手に持った細長い金属の棒で兵隊を返り討ちにした。
「この女!」
「まて、手荒なマネはするなとの命令だ。無傷で生け捕りにしろ」
「了解です、隊長」
兵隊達の隊長はターナの前に足を踏み出した。
「何だい! 近づけば痛い目に……グハッ‼」
「鍛えられた我々軍人といくら凄い武器を持ったとはいえ素人のどちらが強いと思う?」
隊長は腹部へのパンチ一発でターナをその場にひれ伏させた。
「大人しくしていれば手荒な真似はしないと言ったはずだ。お前がターナ・スミソニアンだな」
「フン、アタシは礼儀知らずに名乗る名前なんて無いよ!」
ビシッ!
隊長はターナを立ち上がらせると頬に一発平手打ちを入れた。
「口の利き方に気を付けるんだな。お前はターナ・スミソニアンだな!?」
「ハイ……」
ターナは渋々返事した。
そのターナに対し隊長はニッコリと笑って話を続けた。
「お前は我々と共に来るのだ。なに、取って食おうというわけではない。お前には仕事を依頼したいだけだ」
「だったら普通に仕事の依頼をすればいいだろう! 何でこんなマネをするんだよ」
「口答えは許さん。お前は我々に従えばいい。素直に話を聞けば悪いようにはしない」
ターナは隊長に質問をした。
「……もし断ったら?」
「その時はこの町が火の海になって住民が皆殺しにされるだけだ。その上でお前を連れていく。お前には拒否の選択権は無いのだ」
ターナは考えた。
もしここで断れば父親と幼い頃からずっと過ごしてきたこの町が消されてしまう。
そうなるとせっかく生き延びたとしてもこの町で今後暮らすことも仕事を受ける事も出来なくなってしまう。
それだけは絶対に嫌だと彼女は考えた。
それにここで生き延びないとユカ達と約束した武器を作ることも出来なくなってしまう。
職人としての誇りで仕事の不履行は絶対に許されない……。
「わかった。もしアタシが従えばこの町の人達には手出しをしないんだな……」
「パレス大将軍の名に懸けてそれは約束しよう」
「……わかったよ。連れてきな」
「そうだ、大人しくすれば手荒なマネはしない」
渋々ながらも兵隊に従ったターナの神経を逆撫でさせたのは一人の兵隊の一言だった。
「隊長! ここに武器らしきものがあります。コレも押収しますか?」
「テメェ! 汚い手でアタシの作品に触るんじゃないよっ!」
「隊長……コレって……ひょっとして!」
隊長が部下の持ってきた武器を見て驚いた。
「まさか! これは伝説のオリハルコン⁉ それも持っていけ。パレス大将軍に献上する」
「ふざけんなぁ! アタシの作品を返せェェ」
先程まで大人しく連れていかれることに従ったはずのターナは作品を手荒に扱われたことで半狂乱になってしまった。
そんな彼女を隊長は一撃を加え、気絶させて連れていくことにした。
このような形でターナは兵隊達に連れられ、空帝戦艦アルビオンに向かうことになった。
冒険者ギルドの町の住民はその様子を指をくわえて見ていることしかできなかった。
「くそっ! ユカさんがいれば……」
「ハンイバルさん達も不在だと……おれ達って無力だよな」
「これじゃあユカさんに顔向けできねえよ……」
三人の男達が落胆している。
彼等はユカのおかげで改心した元ヘクタールの兵士達だった。
小型の飛行艇は彼らの見ている前で湖に向かい飛んでいった。
◆◆◆
ターナが目を覚ますと、そこは立派な部屋の中だった。
「ここは……どこだい?」
部屋の扉を開けた彼女が見たものは、どこかの船の中のようだった。
いや、それは船というにはあまりにも巨大な要塞というべきだったろうか。
「隊長、ターナが目を覚ましました!」
「馬鹿者! ターナ技術主任と呼べ!」
「へ? 技術主任……?」
突然の展開にターナは意味が分からない様子だった。
「ターナ技術主任殿、先程は手荒なマネをして申し訳ございませんでした。パレス大将軍がお待ちです」
ターナは隊長に連れられ、何故か戦艦の艦長室の前に立っていた。




