691 イッスンボウシ作戦
バロールとの死闘でボク達の仲間はみんなズタボロになった。
体力と身体の傷こそエリアさんの治癒スキルで回復しているとはいえ、体力以外の精神力や魔力といった精神的な力は全員限界ギリギリだ。
大魔女エントラ様やアンさんといった神にも匹敵するほどの魔力の持ち主ですらバロール相手に全力を使ったことで魔力や精神力は枯渇寸前だ。
これは決して彼女達が弱いわけではなく、バロールという怪物が彼女達の無尽蔵とも言えるほどの魔力をつぎ込んでも倒せないほどの怪物だったということだ。
それでもどうにか大魔女エントラ様とアンさんが魔力の限界まで叩き込んだことでバロールの眼を守っていた強固な魔力結界は破壊された。
丸腰になったバロールは最早、武器を砕かれ手も足も出ない。
右腕をホームさんルームさんに破壊され、複数のビットはボクが破壊し、左腕はシートとシーツの双子の狼が破壊し、残った胴体はフロアさんとサラサさんが攻撃し、そして最強の力を発揮する巨大な眼球は大魔女エントラ様とアンさんによって結界が破壊された。
まさに総力戦というべきだろう。
ボク達全員の全力で挑んだことでバロールはその全身がズタボロになり、もう打つ手はないようだ。
しかしここまで追い詰めたとはいえ、もう全員の力が限界寸前だ。
この中でどうにかバロールと戦う力が残っているのはボク一人だけだと言える。
『ユカ、やったな! これでバロールはもう丸腰と同じだ! ただのカカシと同じだな!』
『ソウイチロウさん、何ですかそのカカシって……』
そうだ、ボクは一人だが一人だけではない。
ボクの中にはソウイチロウさんがいる。
彼のアドバイスが無ければ勝てなかった戦いはどれくらいあっただろうか。
ボクとソウイチロウさんは文字通り一心同体なんだ。
『す、すまん。ついついネタに走ってしまった。だがそれどころじゃないな、どうやらこの中で戦えるのは私達だけのようだ』
『そうです、ソウイチロウさん。バロールを倒すためにアドバイスお願いします』
『アドバイスと言われてもなぁ。後は一寸法師作戦くらいか』
『何ですか? そのイッスンボウシってのは』
また聞いたことの無い話だ。
『そうだな、この世界で言うなら、ホビットより小さい……妖精か小人のようなものだ。その小人が巨大な鬼の身体の中に入って中から鬼の身体を攻撃して倒すって話だ』
なるほど、つまりはあのバロールの中に入ってしまい、中から破壊すればいいということか!
『ありがとうございます、とても良いヒントになりました!』
ボクはソウイチロウさんにお礼を言い、バロールの巨体を見上げた。
バロールはなすすべもなく、眼をギョロギョロと動かすだけだ。
あのオリハルコンで出来た怪物の中に入るとするなら、本当は口が良いのだろうがこの怪物には口が無い。
それならあの巨大な眼から中に入ることが出来ればソウイチロウさんの言ったイッスンボウシみたいに中からバロールを破壊できるかもしれない!
「ボクの足元の地面をバロールの高さまでチェンジ!」
ボクはマップチェンジスキルを使い、今いる地面の高さをバロールの眼の位置まで高くした。
「いくぞォッ!」
ボクは新生エクスキサーチを構え、バロールの巨大な眼に向かいジャンプした。
バロールの眼を守っていた魔法結界は大魔女エントラ様とアンさんのおかげで消滅している。
ボクの構えた剣はそのまま眼球を切り裂き、頭部の中に入りこむことに成功した。
「やったっ! えっ……うわぁあああっ」
バロールの眼の中に入り込んだボクはそのまま目の中の空洞から足元の無い下に向かうトンネルの中に入り込んでしまい、そのままどんどん落下していった。
「くそっ! 止まれェェェェッ!」
ボクは側面に新生エクスキサーチを突き刺しながら落ちるスピードを緩めようとしたが、それでもスピードは止まらなかった。




