689 兄妹のコンビネーション攻撃
シートは妹のシーツにいきなり脚を噛まれたことに驚いたが、口からオリハルコンの剣を落とすことは無かった。
彼はそれくらい強く折れたオリハルコンの剣を噛みしめている。
この剣を落とせばもう自分に勝ち目が無いと思っているのだろう。
それを考えた上でも、なぜ妹のシーツがいきなり彼の脚を噛んだのだろうか。
その答えはすぐにわかった。
シーツはシートの脚に噛みついたまま、兄の巨体を力任せに振り回した。
するとシートの身体は振り回されたことで襲ってくるバロールの腕に当たる形になった。
なるほど、つまりシーツは骨にヒビだらけとはいえ、自身の方がシートよりは傷が浅いのを理解していて、シートが自身では攻撃できない相手に対してのアシストをしようとしているのか。
やり方が荒っぽいとはいえ、確かにこれはシートが自らの身体を使って攻撃するよりは効果的だと言える。
流石は聖狼族。
生まれ持った戦いの血というべきだろうか。
『まさに戦いの遺伝子といったところだな』
『ソウイチロウさん、だからボクに分からない言葉をいきなりしれっというのやめてください!』
『ああ、悪かった。遺伝子とはDNAとも言って、わかりやすく言えば両親の力を子供がそのまま引き継ぐもののことなんだ』
なんとなく内容は理解できたが、ボクにはこの人の知識量って一体どこからどうやって手に入れたのかがまるで理解できない。
だがなんとなく言いたいことは分かった。
シートもシーツも聖狼族として生まれながら戦う術を持っているということだ。
ボクがソウイチロウさんと共有している記憶の中でも、彼等は生まれてすぐに森の中でゴブリンやブラディーウルフの群れと戦っていた。
そして生まれてすぐで力が無かったにもかかわらず、木の枝を使い、二匹のコンビネーションで強敵に打ち勝った。
彼等はその時から戦いのセンスがあったのだ。
その彼等、シートとシーツの二匹の狼は今、古代文明最強最悪の破壊神と戦っている。
彼の銜えた武器は木の枝からオリハルコンになっているが、二匹のコンビネーションは健在だ。
シートは自らの身体を妹に委ね、バロールの左腕と戦っている。
シーツは兄の身体を銜えて振りまわしながらバロールの攻撃をはじき返している。
お互いがお互いの出来る事をし、この兄妹は古代の破壊神に立ち向かっているのだ。
これは息の合った兄妹で無ければ出来ない行動だ。
二匹の攻撃で、バロールのオリハルコンで出来た左腕はあちこちがヒビだらけになっていた。
シートの口回りも傷だらけになっているが、それでも彼はオリハルコンの剣を決して口から離そうとはしない。
シーツはシーツで何度も兄の巨体を振りまわし続けたことで身体に相当の負担がかかっている。
この戦い方もそう長くは続けられないだろう。
なぜならシーツが深く噛みついたシートの後ろ脚はボロボロになっていてそのままでは間違いなくもう歩けなくなるか最悪脚が引きちぎれてしまう状態だ。
おそらくは次の攻撃が最後の一撃になるだろう。
それでバロールの左腕を倒せなければシート達の負けだ。
バロールは左腕を大きく振り回し、全体に熱を暴走させながらシート達に襲いかかった。
シートとシーツはバロールの左腕に対し、最後の攻撃に出た。
今まで縦に振り回したり横になぎ払う形で攻撃していたシーツだったが、最後の力で思いっきり勢いをつけてシートの脚に噛みついたまま横に大きくスイングさせた。
シートはシートで身体の力を口の一点に集中させ、激しい回転に負けないようにオリハルコンの剣を強く嚙んでいる。
もうシートの口元は血だらけでボロボロだ。
二匹の兄妹は最後の力を振り絞り、妹が兄を何回も何回も強く振り回し続けた。
そのあまりの勢いはその場に竜巻を作るほどの力だ。
そしてその回転力が限界に到達した時、妹のシートは兄のシーツの脚から口を離した。
そして回転力を全て受け取ったシートは襲い掛かるバロールの左腕目掛けて飛び出した。
ボロボロになり砕けながら真っ赤に燃え上がったバロールの左腕と、兄妹の全ての力を込めた一撃が激突する!




