687 バロールとの激闘
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ボクの目に映っているのは、バロールの左腕に立ち向かうシートとシーツの双子の狼の姿だった。
彼等は必死でバロールの左腕に飛び掛かっては弾き飛ばされることを繰り返している。
無茶だと思うのだが今ボクが止めても彼等はそれを聞かないだろう。
なぜなら彼等は不可抗力だったとはいえ、バロールの眼に操られ、ボク達に襲いかかってしまったからだ。
大切な仲間に向かって牙を剥いてしまった、その後悔の気持ちが償いの行動となって彼らの戦う理由になっているのだろう。
だがシートとシーツの二匹の武器はオリハルコン製ではない。
古代金属ゾルマニウムで出来ている爪はいくら硬いと言っても、オリハルコンと比べると見劣りしてしまうレベルだ。
それに対してバロール本体から飛ばされた左腕は全体がオリハルコンの装甲で作られているのでボクやホームさんでないと傷一つつけることが出来ない。
今は装甲が剥がれ、内部のあちこちが見えてるので大魔女エントラ様やアンさんの魔法が通じているが、バロールの全体が無傷だったらあの最強レベルの二人の魔法ですらダメージを与えられないのが古代の最強金属オリハルコンだ。
オリハルコンを傷つけるためには、オリハルコンかそれ以上の力でないと無理だ。
しかしシートの牙やゾルマニウムの爪はオリハルコンに傷一つつけることすらできない。
シートたちがやっているのはせいぜい体当たりで爪の飛んでくる向きを変えたりすることくらいだ。
それでもシート達はあきらめずにバロールの左腕に飛び掛かっている。
例えそれが無駄だとしても、諦められないのだろう。
ボクも本当なら彼等を助けてあげたいと思うが、こちらはこちらで飛び交っているビットと呼ばれる使い魔を倒すだけで精いっぱいだ。
ボクの剣、新生エクスキサーチはオリハルコン製なので、ビットを切り裂くことは出来る。
だがビットの動きは早く、僕自身をオトリにしてようやく攻撃させたタイミングを狙わないと攻撃が当たらない。
この戦法でようやくビットは残り三匹まで減らすことが出来たが、それでも攻撃を受けていないビットはまだ無傷だ。
どうにかコイツらの動きを止めることが出来れば……。
ボクは無茶を承知でエントラ様に魔法を使って欲しいと頼んだ。
「エントラ様、すみませんがこちらに魔法を使ってもらえますか!」
「ユカ、本当はそうしたいとこなんだけどねェ、こちらはこちらで手いっぱいなんだよねェ!」
大魔女エントラ様とアンさんはバロールの眼を目掛け、魔法の猛攻撃を放っている。
そのおかげでボク達は破壊光線の直撃を受けずに済んでいるので、下手にここで攻撃を止めるとバロールの破壊光線で全滅だ。
そう考えるととてもじゃないがビットのために大魔女エントラ様の手を止めさせるのは難しい。
「ユカ様、私でしたら援護できますわ。グラビティーフィールド!」
ボクの頼みを聞いてくれたのはルームさんだった。
そういえば彼女も大魔女エントラ様の弟子で、魔法のスペシャリストだ。
ルームさんのグラビティーフィールドの魔法はビットの動きを鈍くさせ、ボクに攻撃のチャンスを作ってくれた。
そうなのか、オリハルコンは実際のダメージには強くても、魔法の付加効果体制があったわけではなかったのか。
「助かりました! 後はボクがやります!」
ボクは剣を振るい、動きの鈍くなったビットをまとめて三匹同時に切り裂いた。
一気に切り裂かれたビット達は爆発して粉々に砕け散った。
これでバロールの武器はあの目玉と左腕だけになった。
そう喜んでいたボク達だったが、その戦いの裏ではエリアさんを庇おうとしたシートが致命傷を受け、倒れてしまっていた。
エリアさんの回復魔法も長い時間かけて使えないので最低限の応急処置しかできていない。
それでもシートは最低限の傷を癒してもらい、立ち上がって何かを睨んでいた。




