679 邪悪なる凝視
ボクは前方の巨大な怪物を見上げた。
古代ゴルガ文明によって作られた機械で出来た破壊神、それがバロール。
巨大な一つの眼球に全身を覆う鎧、そして蛇腹状の伸縮自在な腕は巨大なカギ爪を持ち、下半身は足が無くスカートの内側に尻尾のようなものが見える。
ボクは今までにこのような姿の生き物は見たことが無い。
それは見るからにおぞましい怪物といった姿だ。
この怪物が古代から多くの村や町、国を滅ぼし、現在まで存在している。
今はこの天空の島エルドラドに封じ込められていたが、それを破ってしまったのはボク達だ。
だからボク達にはこの怪物を倒す責任がある。
「GUOOOOOOAAAAA!!」
声とも叫びともつかないおぞましい音を立てながら、バロールは再び動き出した。
流石にグランナスカの全力の光を込めた体当たりでも、この怪物を倒すことは出来なかったようだ。
バロールはグランナスカの頭部がめり込んだ腹部から二本の腕を使って頭部を引き抜き、グランナスカをその巨大な腕で放り投げた。
グシャガアアアンッ‼
とてつもなく巨大な音と土煙が舞い上がる。
だが壊れたのは周りの地面や瓦礫ばかりで、グランナスカ自体は全くの無傷だ。
どうにかバロールを倒した後なら再びあの巨体は空を飛べるかもしれない。
しかし今はそれどころではない。
ボク達は全力でこの機械仕掛けの破壊神バロールを倒さないといけないんだ!
グランナスカの頭部を引き抜いたバロールはその巨大な眼でボク達を睨みつけてきた。
だがボク達に破壊光線を撃ってくるようではないみたいだ。
しかし安心はできない、ヤツが何かをしようとしているのは間違いないからだ。
「グウゥウウウルウルウルウウウ!」
「グガァアアアアッ!」
バロールの目を見たシートとシーツがいきなり唸り声を上げ、ボク達に襲いかかってきた。
「くそっ、一体どうなっているんだ!」
「ユカさん、ダメです! 俺の呼びかけに応えようともしません!」
どうやらあのバロールの眼は自身よりもレベルの低い相手を混乱、状態異常にさせる力があったようだ。
残念ながらシートとシーツの二匹の狼はその状態異常を喰らってしまい、ボク達を敵だと混乱しているようだ。
「くっこのまま二匹を置いておくわけにもいかない」
「だからって仲間を攻撃するわけにもいかないのよねェ。ここは眠らせるしかなさそうだねェ」
ダメだ、もしあの双子がこんな所で寝てしまえば、この後の激しい戦いに巻き込まれて死んでしまう。
「ダメです、それでは二匹ともこの後、命が持ちません」
「仕方ないねェ。異空間に閉じ込めて後で出してあげようかねェ」
とにかく今の状態のシートとシーツの二匹が戦力にならないのは明白だ。
まさかバロールの眼にこんな力があったとは想像もつかなかった。
「グウウウウ……」
シートは目を真っ赤にし、ボクに噛みつこうと隙を狙っている。
それを追い払うのは簡単だが、傷つけないようにとなると途端に難しさが変わってしまう。
「くそぅ……どうすればいいんだ」
その時、エリアさんが双子の前に踏み出した。
「エリアさん、危ないっ」
「大丈夫です。私があの子達を大人しくさせて見せます……」
そう言うと彼女は手を大きく掲げ、光をその手に集めだした。
「悪しき力に魅入られし者よ、その心に平穏を取り戻したまえ! ディスペルマジック!」
「……グウゥ……クウウウゥゥ?」
「……ガァ……ア、アオオォーン」
目を真っ赤にして狂暴化していた二匹の狼は、エリアさんの魔法で落ち着きを取り戻した。
「やるねェ、妾にはその力は使えなかったからねェ……でもここからは任せて欲しいねェ! アンチマジックバリアッ!」
大魔女エントラ様が敵の魔法を無効化する魔法防御結界を張った。
「さて、ここから仕切り直しだねェ!」
「はいっエントラ様!」
ボク達はバロールと戦う為、全員でヤツの前に集まった。




