664 蔵書の山、山、山
いざ息巻いて本の群れに飛び込んだボク達だったが、あまりの量の多さに最初の数日で大半が力尽きていた。
この大魔女エントラ様の用意した異空間は元の世界とは異なった場所にあるので時間の流れが向こう側の一瞬にも満たないらしい。
だが流石に毎日毎日大量の本を読んで色々と調べものをしようとしても限度ってものがある。
それにこの本は大抵が簡略化されていない難しい古代語で書かれているので一冊読むだけで一日かかりそうな本もある。
下手すれば一日では読み切れないような分厚いものも大半だ。
「フロア、ここ、ガガモッチャしたプハのトトハペある」
「え? おお、本当だ、どう見てもアレだな」
どうやらフロアさんとサラサさんが読んでいた本は料理のレシピ本だったみたいだ。
しかしそんな本に乗っているほどあの料理の歴史が深かったとは思わなかった。
ここにある本は、歴史、政治、軍事、技術、錬金学、計算、語学、魔法大全、趣味、ありとあらゆるジャンルの物がある。
その本が所狭しと本棚の遥か上の方にまであるのだ。
なんと大魔女エントラ様はあの建物の中身ごと全てこの異空間に持ってきてしまった。
その数はざっと数十万冊といったところだろう。
しかし大魔女エントラ様やエリアさんはそれらの本をサッと見ただけで全ての内容を覚えてしまっている。
これが神や古代の一族の末裔の能力だとすると今の一般人のボク達には到底マネの出来るものではない。
一週間以上本を読み続けたボク達だったが、彼女らのおかげで読む本の量は半分以下で済んだ。
ようやく全部の本の底が見えかけた時、ソウイチロウさんがトンデモなく恐ろしいことを言った。
『ユカ、どうにかここに古代のデータセンターの全部を持ってくることが出来たならその中身を見ることもできるかもしれない』
『ソウイチロウさん、その中身ってどれくらいあるんですか??』
『そうだな、本をデータ化したもの以上の数は確定だろうからこの数倍から数十倍といったところか』
気が遠くなりそうな数字が聞こえてしまった。
『数倍から数十倍っ!?』
『そうだな、電子データ等というものは物質的な重さが無いからサーバー容量次第ではどこまでも大量なデータを蓄積することが出来るからな』
この図書館の蔵書量の数十倍がこの機械の中に入っているって、とてもじゃないが信じられない。
だがいくらそれだけのものがあるといってもその機械が動かなくて見られないなら何の意味もないただの細長い箱だ。
『でも見ることは出来ないんですよね』
『いや、そうでもない。私の勘だが、その辺りにある電球を壊さない程度の雷の魔力を流せればそのデータシステムの中身を見ることも可能だろう』
電球ってのはその辺りにある水晶みたいな小さい透明の玉のことか。
他にも細長い似たようなものもあるけどコレもその一種なのだろうか。
『ソウイチロウさん、この灯りを雷の魔法で点けるってことですか?』
『そうだな、その電球が割れない程度の雷をこの機械に通すことが出来ればそのデータシステムが復旧するかもしれない』
ボクはソウイチロウさんに伝えられたまま、大魔女エントラ様に電球のことを話した。
「エントラ様、この水晶を雷の魔法で灯す事は出来ますか?」
「これ? これねェ。これだとかなり微妙に弱い魔力と雷の調整が必要だろうねェ」
そう言いながら彼女は透明な水晶に触れ、微量な魔力を流した。
すると、透明な玉は明るい光を灯し、その後すぐに消えた。
「あら、流石にちょっと弱すぎたみたいだねェ。でもこの魔力で十分動くってのは分かったからねェ、それじゃあもう一度やってみようかねェ」
彼女は再び魔力を使って透明な玉と細長い管の二つを雷の魔力で灯してボクに見せてくれた。
この雷の魔力量ならこの機械の中身が見られるかもしれない。




