660 バロールに見つかるな!
辛くもバロールの感知から逃れることの出来たボク達は、エルドラド内部を調べることにした。
バロールを倒すにしても相手の弱点や強さがわからないと勝ち目がない。
認識疎外の魔法で音や姿を消したボク達はどうにかバロールの眼前を横切り、地下に入ることに成功した。
「暗くて何も見えないよ」
「ライトの魔法を使いますわ」
ルームさんがライトの魔法を使ってくれたので地下が見えるようになった。
どうやらここは廃棄されて長い間灯りが消えてしまっていたようだ。
「何もなさそうですね」
「まさに遺跡ってところだねェ。そういえばユカ、ジバ様から何か受け取っていなかったかねェ」
そうだ。
ボクはここに来る前にジバ総司令にある道具を渡してもらっていた。
それはフワフワ族のペンダントや指輪のような装飾品に近い形をしていたが、どうやら鍵を開けるためのマスターキーともいえるようなものだった。
「そうです、ジバ様にマスターキーを貰いました。これがあればどんな鍵も開けれるみたいです」
しかし見た目的にはどう見ても鍵に見えない。
これを鍵のしまった扉の近くの水晶の板の上で使うらしいことはフワフワ族の遺跡で実践済みなので、扉の開け方は同じだろう。
「あれ? 何も見えなくて何が何だかわからないっ!」
「しまった、そういえば透明化の魔法かかったままだったねェ」
ボク達は大魔女エントラ様の魔法で透明になっているので、何処に何があるのかすらわからなくなってしまっていた。
「仕方ないねェ。少し魔法の仕様を変更するかねェ」
大魔女エントラ様がそう言った後、ボク達は透明から元の姿に戻った。
「でもこれだとバロールに見つかるのでは!」
「大丈夫、そこはもう対策済みだからねェ。つまり、妾の周囲のフィールド全体を外からは見えない、音も聞こえない状態にしたからねェ。あ、そうそう、熱や音波もすり抜けるようにしているからねェ」
流石は大魔女エントラ様というべきか。
魔法の効果を個人ではなくフィールドとして周囲全部にかけたのだ。
ボクは試しにフィールドの外側に一度出てみることにした。
「バ、バカッ! 何をし……」
フィールドの外に出た途端、みんなの姿が消え、大魔女エントラ様の声も途切れた。
どうやら本当にこの魔法はフィールドの外側には何の感知もさせないようだ。
フィールドの内側に戻ったボクに大魔女エントラ様が大きな声で怒鳴った。
「一体何を考えてるのかねェッ! アンタ死にたいのかねェッッ!」
辺りが響きそうなくらい大きな怒鳴り声だったが、この声が聞こえるのはあくまでもこのフィールドの中だけだ。
外は全く無音の状態とはいえ、ここまで大きな声で怒られるとは思わなかった。
まああのバロール相手だとすると、彼女の怒りもごもっともではあるが。
「ごめんなさい。気をつけます」
ボクが謝ると大魔女エントラ様はそれ以上大声で怒鳴らなかった。
「本当に気をつけなさいよねェ。バロールは今までの相手とは違うんだからねェ」
「はい、気をつけます」
ボク達が戦いを挑もうとしているバロールはあの黄金巨神ダルダロスとほぼ同じくらいの強さの怪物だ。
アイツを倒すためにはボク達には情報が少なすぎる。
そのため、このエルドラドを調べてあのバロールに関する情報を手に入れないと今のボク達には勝ち目がない。
幸い大魔女エントラ様の魔法でボク達の姿はバロールには見つかっていない。
だがどうやら、この認識疎外の魔法にも欠点があって、この魔法を使っている限り、彼女は他の魔法が使えないようだ。
そうなると色々と調べものをしたりするときに彼女に聞くわけにはいかない。
下手に気を散らせてしまうと、魔法の効果が切れてしまうかもしれないからだ。
ボク達はどうにかしてあのバロールに関する情報を集めないといけないのだ。




