656 高速艇ヴァルジオン
準備を整えたボク達は浮遊要塞アルカディアから飛び立った。
ジバ総司令に譲ってもらった高速艇ヴァルジオンは全身銀色のオリハルコンで作られた翼の生えた鳥のような形の船だ。
「これ、言い伝えの黄金のコンドル? でも色が違うか」
サラサさん達フワフワ族の古い言い伝えに黄金のコンドルというものがあるらしい。
どうやらその黄金のコンドルは地上と高い闇を瞬時に移動できるものだそうだ。
だがこれはどうやらそれとは違うらしい。
ジバ総司令に言われたのが、あまり低く飛ぼうとするな、低く飛ぼうとすると地上に引き寄せられ、謎の炎の力で燃え尽きてしまうと念を押されたくらいだ。
『なるほど、どうやらこの高速艇は宇宙空間の航行は出来ても大気圏突入能力は無いというわけか』
『ソウイチロウさん、自分だけ分かっているような言い方でわけわからないことを言わないで下さい!』
『ああ、すまんすまん。わかった。わかりやすく説明しよう』
この人、悪い人ではないがたまに人のことを無視して自分の知っていることを確認のように言う癖がある。
そこさえなければいい人だと思うんだけど、これがボクの前世だと考えるとボクにもそういうところがあるのかもしれない。
『つまりだ、今私達の乗っているこのヴァルジオンだが、これは高い闇、宇宙空間と呼ばれる場所を飛ぶ船としては最適な造りをしている。しかし、地上とこの高い闇と呼ばれる宇宙空間の間には空気の見えない壁があり、その見えない壁を貫く力はこの船には無いということだ』
なるほど、それがソウイチロウさんの言っていたことの意味なのか
『龍神イオリ様がこの空域まで飛んでくることができたのは大魔女エントラ様の防護魔法で見えない空気の壁からの攻撃をしのいだからできたということだ』
それだともし地上に引き込まれようとしたら大魔女エントラ様の防護魔法で守れば地上に戻れると考えていいのだろうか。
『そして、何よりもこの船の欠点といえるのは、もし大魔女エントラ様の防護魔法で地上に戻ることができても、再びこの宙域まで見えない壁を突き破って昇ってくる力がこの船には無いということだ』
つまり、上から下への一方通行しか移動できなくてもう一度この高い闇には戻ってこれないということか。
『それに対してフワフワ族の人達の言っている黄金のコンドルとはこの宙域と地上を行き来することが出来る大気圏突入能力を持った宇宙船だということだろう』
『あ、もうそれ以上はいいです。多分聞いてもワケわからない話ですし』
ボクは長引きそうな話を打ち切ってみんなとアルカディアから少し離れたエルドラドを探すことにした。
「方向としてはこちらの方みたいだけど……どうやらジバ様が言うには黄金巨神ダルダロスの光の剣が真っすぐに切り裂いたのがこちらの方向だと言っていたから」
黄金巨神ダルダロスの光の剣の威力は相当凄かったらしい。
ボク達が浮遊要塞アルカディアに向かう途中にはこの辺りは空飛ぶ大小の岩石が所狭しと散りばめられていた。
だが黄金巨神ダルダロスの光の剣が切り裂いた後、この辺りには何一つとして存在していない。
岩一つ無い空というべきだろうか。
高速艇ヴァルジオンは障害物が無い高い闇を物凄い速さで駆け抜けた。
それはボク達が岩で移動した数日の距離をあっという間に追い越したのだ。
「見えた、あれがアルカディアだ!」
ボク達の見た金属で出来た島は以前見た時と姿が変わっていた。
巨大な鏡は砕け散り、周りにリングのようになっていた水晶の壁はあちこちに亀裂が生じ、見るからにボロボロといった見た目になっていた。
「さあ、アルカディアに向かうぞ!」
ボク達がヴァルジオンをアルカディア目指して進めた時、一瞬光がアルカディアから放たれた。
「何だこれは!?」
「くッ! リフレクトウォール!」
大魔女エントラ様がとっさの判断で反射魔法を使わなければ、ボク達はあの光で焼き砕かれていたかもしれない。
「まさか、バロール!?」




