654 天空から降り注ぐ光
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空帝戦艦アルビオンの艦長室では、パレス大将軍がワインを飲んでいた。
「ゴーティ、あの鳩に気が付いてくれよ……。今更許される立場ではないが、我にも守るべきものがあるのだ」
なんと、ゴーティ伯爵が部下から送られたと思っていた伝書鳩はパレス大将軍自らが送ったものだった。
彼は一体何を考えて伝書鳩をゴーティ伯爵に送ったのだろうか。
「お前とは騎士団時代によく伝書鳩のやり取りをしたからな。それにこの船には古代の技術でどこに何があるのかがすぐに分かるようになっている。その機械は我の部屋にあるだけなので他の者達は知らないがな」
どうやらパレス大将軍は地上のどこに何があり、誰がいるのかをすぐに見つけることのできる古代の技術を使えるようだ。
その技術のおかげで彼はゴーティ伯爵の居場所をすぐに見つけることができた。
「我とて無差別に村や町を焼け野原や火の海にしたくはない。だがそうせざるを得ない、それならばせめて、村までは無理でも親友であるお前の領地の人達を一人も殺さない選択ぐらいはさせてもらいたい」
どうやらこのパレス大将軍という人物、無造作に破壊を喜ぶような狂人ではなく、むしろ良識のある立派な武人といったところだろう。
その彼ですら逆らえないこの状況はどうなっているのだろうか。
彼はせめても村人を避難させた上で無人になった村や町を焼き払うことで蹂躙しているという体を取ろうとしているのだ。
偽善でしかないかもしれないが、今彼に出来る唯一の行動がこれだと考えると仕方が無い。
だがそんなパレス大将軍率いる空帝戦艦アルビオンに予想だにしないものが降り注ぐとは誰一人として気付くものがいなかった。
王都を目指し航行するアルビオン目掛け、太陽砲台ソルブラスターの高熱の光の柱が降り注いだのだ!
ズバシュゥウッゥ!
ズドォォォオオン‼
激しい熱と光がオリハルコンで作られた薄く加工された帆とマスト、そしてプロペラの一部を焼き砕いた。
そのあまりの衝撃に、中にいた船員達の大半が転倒してしまったほどだ。
「一体何が起きた!?」
その直後、艦長室に兵士が駆けつけてきた。
「パレス大将軍! 敵襲です、上空から凄まじい光の魔法が降り注ぎました」
「何だと!? 術者はどこにいるのだ! 見つけ次第すぐに殺せ!」
「それが、魔力レーダーにも誰も映っていないのです」
魔力レーダーとは空帝戦艦アルビオンに搭載された古代の技術の一つだ。
この魔力レーダーは対魔法使いに特化した戦いができるようにゴルガ軍国がアルビオンに搭載したもので、この魔力レーダーのおかげで旧エイータの信徒達との激戦を制した程だ。
しかしその魔力レーダーには魔法の術者どころか魔力の発信源すら何も感知されなかった。
それもそのはず、この強烈な降り注いだ光は魔力ではなく、太陽の光そのものを収束したものだ。
それ故に魔力障壁は意味をなさず、さらにあまりのオリハルコンですら溶かす高熱によってアルビオンは中破せざるを得なかった。
さらに付け加えるとするならば、ソルブラスターが放たれたのは宇宙空間からなので、いくら魔力レーダーが周囲数十キロ四方を感知できるものだったとしてもこの発射衛星を認識することはほぼ不可能だといえる。
「くっ! 被害状況は‼」
「死者が出たかどうかは把握できておりません。ですが現状このままの高度では航行不能かと思われます!」
「く……仕方ない、一度不時着する。近くに湖か何かは見えるか」
「はい、前方の山の向こうに湖が見えます」
「わかった。総員、不時着時のショックに備えよ!」
浮遊要塞アルカディアから放たれた太陽砲台ソルブラスターの威力は、空帝戦艦アルビオンを中破させ、不時着、修理をせざるを得ない状況に追い込んだ。
この修理にはかなりの時間を要するだろう。
このことにより、ユカ達は地上に戻るまでに大きく時間稼ぎをすることができた。




