643 白旗を掲げる
◆◇◆
ボク達は武装した集団に完全に取り囲まれていた。
敵は明らかにボク達を殲滅対象と見ているのだろう。
ボクがエクスキサーチの剣を構えた時、頭からソウイチロウさんの声が聞こえてきた。
『待つんだユカ、どうも様子がおかしい』
『どういうことですか!? ボク達は敵に、ゴルガの軍勢に囲まれているんですよ!』
『いや、それがどうも私には納得いかないんだ。すまないがもし戦うとしても、相手を殺さずに倒すことは出来ないか?』
まあ今のボク達のレベルならこの取り囲んだ軍勢くらい簡単に倒せる。
黄金巨神ダルダロスに比べればこの程度の軍勢は敵ではない。
『わかりました、みんなにそう伝えてみます』
『頼んだぞ、ユカ』
ボクはソウイチロウさんの助言通りに今この場所にいる全員に伝えた。
「みんな、頼むから殺さないように戦ってくれ。敵は何者かわからないんだ。下手すればゴルガでないかもしれない……」
ボクの呼びかけにホームさんやフロアさん、大魔女エントラ様が反応した。
「え? 敵が、ゴルガでないって、どういうことですか!」
「まぁ、その可能性も無いとは言えないねェ。わかった、出来るだけ手加減して戦ってみるかねェ」
「うむ。ワシもそれほど多くは動けんからのう、軽く撫でる程度にしてやろう」
ホームさん、ルームさん、エリアさんにフロアさん、サラサさん、それとシートとシーツの双子の狼、ボク達は周囲を囲んだ軍勢の攻撃をかわしながら、戦った。
古代文明で作られた武器防具を持った兵隊達は次々とボク達に襲いかかってきたが、どれも今のボク達の敵ではなく、無力化するのはそれほど難しくはなかった。
「サンダーボルト!」
「ファイヤーウォール!」
魔法耐性のかかっているであろう防具だったが、ここにはオリハルコン製のものは無かったようでルームさんや大魔女エントラ様の初級魔法で簡単に倒すことができる。
また、シートやシーツの攻撃やフロアさん、サラサさんの攻撃でも倒せるくらいなので多分レベル40前後、それに武器防具が加わって全体の強さ的にはレベル50くらいといったところだろうか。
ボクは敵を無力化するためにマップチェンジで非殺傷系のスキルを多用して戦った。
「辺り一面の地面をぬかるみの沼にチェンジ!」
「「「ΣΔΔ§÷!」」」
敵が何と言っているかはわからない。
だがものの数分でボク達を取り囲んでいたはずの軍勢は全員無力化され、その場に気絶していた。
撤退する敵は誰一人いない。
これがゴルガでないとすると、ソウイチロウさんの言う敵は一体何者だというのだろうか?
戦うボク達の元に敵の第二陣が迫ってきた。
今度の敵にはオリハルコンの武具を持った奴らもいるようだ。
だが、ボクが一番変に感じたのは……敵の軍勢の中に白い旗を掲げる機械の馬に乗った兵士がいたのだ。
白旗は降伏の印。
それは世界の常識だろう。
相手はボク達とこれ以上戦うつもりは無いのだろうか。
それにしては第二陣の戦力が先程よりも強そうで、中には機械で出来たゴーレムまでいるくらいだ。
そして彼らはボク達に一斉攻撃を仕掛けてきた!
「な、なんで白旗を掲げた軍勢が攻撃してくるんだよ!?」
「何という卑怯な、騎士道にも劣ります!」
「我の戦った部族の恥知らずでもこのようなだまし討ち、見たことない!」
ボク達の全員が白旗を掲げた敵の猛攻に驚いてしまった。
敵はそのタイミングを狙い、ボク達に攻撃を仕掛けてきた。
だがその武器はボク達の遥か上空に向け撃たれた。
「へ? 一体どこを狙っているんだ?」
呆気にとられたボク達だったが、その武器は確実に相手を倒すための古代文明の兵器だった。
上空に放たれた武器からは、光り輝く粉が降り注いだ。
「!? これは……! まさか、マナ浸食の粉!? こんな物が現存していたなんて!?」
光り輝く粉はボク達に降り注ぎ、魔力を次々と吸い取っていった。




