63 悲しき獣使いの一族
「あれは……『モッサール族』の生き残りですな」
「モッサール族? 何ですかそれ?」
「モッサール族、森の民とも言われた動物と共に生きる人達の事です。動物と会話したり心を通わす事が出来るスキルの持ち主と言われています」
どうやら、あのアフロ頭のフロアという男はそのモッサール族の生き残りのようだ。
「しかし、それでは何故アイツはボク達を襲ったんですか?」
「この森が元々はモッサール族の集落があった場所なんです」
「父上が……その民を滅ぼしたというのですか!?」
ホームはゴーティ伯爵がこの土地で虐殺をしたと言うのが信じられないようだった。
「いや、ここは元々レジデンス領ではないのです、ここはむしろヘクタール領だったのです」
「その話、詳しく聞かせていただけますかしら?」
ゴーティ伯爵の娘として、ルームはこの話について詳しく知りたいようだった。
「ずっと以前、ヘクタール家とレジデンス家はこの辺りを巡り戦争をしていたのです。最初に手を出したのは『ゲマーサ・ヘクタール』でした」
ヘクタール男爵、ゲマーサは先代のヘクタール領の領主の名前である。
「それで、父上はそれをどうしたのですか?」
「ゴーティ様の先代、ラビリントス様はゲマーサの圧政に苦しむ人たちを解放する為に挙兵したのです、私も若い頃傭兵として参戦しました」
「それでどうなったんですか?」
「戦いは熾烈を極める物でした。中でも我々を苦しめたのが森の民、モッサール族を中心とした猛獣兵団だったのです」
獣と心を通わせ、会話のできる一族、それを戦争に使われたのか……。
「彼らはそれを喜んで参加していた粗暴な原住民だったのですか!?」
「いいえ、モッサール族はむしろ平和を好み森に住む者達、彼らの住処に踏み込まない限りは本来攻撃してくる人達ではなかった」
「ではなぜ彼らは戦争に?」
私は非常に嫌な予感がした。
「人質と薬ですよ」
やはり! 一番最悪なやり方、あの腐れ外道のヘクタールの身内ならそれを平気でやるだろうなとは思ったが想像通りだった!
「女達はヘクタール領に連れ去られ、残った男達はレジデンスとの戦争の為に薬を打たれて凶暴な戦力として投入されたのです」
「……酷い……!」
「許せないねぇ! そのヘクタールって奴、そりゃあ商売でも平気で筋の通らないゲスな事をしてくるわけだ!!」
「それで、モッサール族はその後どうなったのですか?」
オンスさんは思いつめたような表情の後、重い口を開いた。
「……戦力にされた男達は最後の一人になるまで戦場でこき使われ、女達は慰み者にされた挙句に奴隷として売られるか、使い潰されて今は誰も残っていません。また……彼らの使役していた動物達も全てヘクタールの手下に殺されました」
「では、あのフロアというのは?」
オンスさんの目尻にうっすらと涙の痕が見えた。
「一族最後の生き残りの子供です。赤子だったのを私が彼の母親から命からがら託されました……」
「その後私達の旅劇団で子役の動物使いとして一緒に過ごしていたのですが、自身の母親がヘクタール領にいると噂で聞いてしまい……ここを飛び出したのです」
「それで、彼の母親は?」
「フロアがヘクタール領に行った時には母親は見る影もなく男達の慰み者にされ、病気で余命いくばくもありませんでした」
「……ヘクタール……絶対に潰す!」
ホームが怒りに肩を震わせていた。
「その後、彼はどうしたのですか?」
「暴走した彼は一族の動物使いの能力を使い、母親を嬲っていたヘクタールの手下を皆殺しにしてから一族の住処の有ったこの森に姿を消したのです」
「それでこの森に住んでいるのですね」
しかしこの森が安全に通れなければ流通が成り立たない、ここはどうにかして彼を見つけて話をしなければ。
「オンスさん、彼はこの森のどこにいるかわかりますか?」